最強兵器としての地政学

あなたも国際政治を予測できる!

藤井 厳喜 著 2016.09.22 発行
ISBN 978-4-8024-0023-7 C0031 A5並製 216ページ 定価 1620円(本体 1500円)


地図の読み方のコツ≠わかりやすく解説。

東・南シナ海、中東、クリミアなどで起きている世界の大混乱。
複雑怪奇な国際情勢も、地図をみるアングルを変えれば
こんなに簡単に理解できる。

中国が仕掛ける「超限戦」により、政治、外交、メディアなど
あらゆる人間活動が「戦場」になっていることに気づかない「平和ボケ」日本。
現実を直視し“九条真理教"を捨て、“海洋国家"日本に目覚めよ! !

「はじめに」より

最強兵器としての地政学

◆現代でも通用する地政学の英知
地図と年表は、戦略的思考に不可欠である。地図を機能的に活用することによって、現在、自分がどういう地理的状況にいるかを、正確に認識することができる。地図と並ぶもう1つの有効な状況判断の道具が歴史年表であり、年表により自分の歴史的状況を把握することができる。つまり、現在の地理的状況判断は地図を道具として行い、歴史上の状況判断は年表を道具として行うということだ。地図は空間を、年表は時間を戦略的に思考するための最良の道具である。
地図といえば、どんな地図帳の最初のページにも「メルカトルの世界地図」というものが載っているが、これが、私たちが今生きている世界を表していると思ったら大間違いである(ちなみにメルカトル[Mercator]の英語読みはマーケイターである)。確かに、球体の地球を平面図にし、1枚の紙の上に表したオランダ人のメルカトル[Gerardus Mercator](1512〜1594)は天才ではあった。しかしその世界地図は、いったい何を表しているであろうか?
中世のヨーロッパ人がもっていた世界地図は、ヨーロッパ以外には獣頭あるいは双頭の人間の国が存在するというような、幻想的なものでしかなかった。メルカトルの時代の地図は、なにより世界の形をより正確に表すことが第一義であった。
そもそもこの時代に、地球を1枚の平面図にして把握しようとしたヨーロッパ人の発想はすごい。そしてその動機は、世界を植民地支配せんとする征服欲であったに違いない。しかし、現在は、情報技術革命により世界は確実に小さくなり、主権国家の境界線の持つ意味は、経済のボーダーレス化のために、まったく変化している。さらに、インターネットの発達により、現実の世界以外にもう1つのヴァーチャル世界、電脳空間も存在しているのだ。
つまり、こういう時代には、こういう世界を読み解くための別の地図が必要であろうし、別の地図の読み方も必要であろう。しかし、古典的な地政学の英知というものは、現代でも十分に通用すると筆者は考えている。

◆「地政学」とはどういう学問なのか
そもそも地政学というのはどういう学問なのか。それは「地理学×軍事学」といっていい。わかりやすく言えば、地図を戦略的に見る見方である。それを現代の世界あるいは歴史的事象に例をとって、「地政学的発想ではこういう風に考える」「こういう風に地図を見る」あるいは「地図をこういう風にデフォルメして、戦略的に活かす」という実例をこの本でみなさんに紹介したい。
自分の位置を確定する手段として、時間軸と空間軸がある。時間軸的に言うと、過去に起きた大きな出来事を年表にしてみると自分の立ち位置がわかる。それは100年単位でもいいし、数ヶ月単位でも構わない。時系列で物事を見ると、何が起きているのかがよくわかる。
筆者は、毎月2回会員制の情報誌を発行しているが、ニュースをまず時系列で並べてみて、よく考えてみる。するとぜんぜん関係のない地域の出来事が、実は関連して動いているということがわかってくる。たとえばアメリカならアメリカだけで起きたことをずらーっと並べて見ていてもダメだ。世界中で何が起きたか、たとえば今日、この日に世界中で何が起きたか、ということを見ると、意外に地理的に離れた出来事が連動していることがある。ある地域で起きた出来事に対しての別の地域での反応が、アメリカに表れ、メキシコに表れ、シリアに表れ……などということがよくある。
それからもうひとつ、空間軸についてはは当然だが、我々は空間の中にいるわけだから、自分の位置を確定するために地図を見るのである。
地図や年表というのは基本的には、「自分がいる時間と場所を確かめる」、正確にいえば「時刻と場所を確かめる」基本的な道具である。
地図というのは非常に初歩的なものに見えて、実は非常に大事なものである。とくに国際政治、軍事を考える場合には地図は非常に重要である。地図をどういう風に戦略的に見るか。そこからどういう風に戦いに勝つかを割り出していく。これが地政学だ、と言ってもいいだろう。

◆「地図の読み方」を知らない日本人
筆者は国際関係論、地政学を勉強し、その後評論活動をしながら、企業や個人などに情報分析・予測を提供する仕事をしてきた。そんななかで、世界各国の学者、政治家、企業家たちと、これまで数多く接触してきたが、そういう現場で意見が合わないとき必ず感じたのが、「彼らの見ている世界地図はわれわれ日本人の見ている地図とは違う」ということだった。「世界観」、すなわち、彼らの頭のなかにあるであろう「世界地図」が、われわれのものとは違うのである。
たとえば、イギリスは日本と同じ島国であり、ともに海洋国家としてかつて帝国を築いた歴史があるから、日本人はイギリス人に大変な親近感を抱いている。しかし、彼らイギリス人にとって、日本は彼らの地図の右端に位置する「ファー・イースト」(はるか東の果て=極東)なのであり、それ以外の存在ではない。
かつてある在日のイギリス人ビジネスマンと話をしていたときのことだ。この、どう見ても日本嫌いのイギリス人に、筆者はこう言った。「かつて日英同盟というものが存在した。100年前、日英両国は同盟国だった」。そのイギリス人は「くそっ」とのたまわって、筆者の発言を一切無視したものだ。偉大なる大英帝国がこんな極東の島国と同盟関係にあったことなど、国の恥だと言わんばかりだった。
イギリスの作家キップリング[Rudyard Kipling](1865〜1936)の有名な言葉「東は東、西は西。両者は出会うことあらず」が、この感覚をよく表している。イギリスの当時の帝国主義者の冷徹な視点は、私たち、今の日本人にはないものである。
そして、今世界で唯一の超大国であり、世界覇権を握っているアメリカは、世界をどう見ているのであろうか? 彼らの頭のなかにある「世界地図」はどんなものであろうか? それが、私たち日本人の頭のなかにある「世界地図」とはまったく違ったものであるのは、言うまでもないだろう。
外交でもビジネスでも、まず仮に相手の視点に立ってものごとを見てみる。そうすると相手の長所や短所、そして世界観がわかる。それを自分たちに有利に利用しようとするところから、独自の戦略が生まれるのである。“相手の立場に立って考える”だけではお人好しのバカで終わってしまう。そうではなくて、それをもう一度、自分の立場にとって返し、戦略的に利用することこそが大事なのである。

◆混沌とした時代を自信を持って生き抜くための知恵
もうおわかりいただけたと思うが、本書中の地図はそうした別の視点からの戦略的地図である。地図を戦略的に見るところから生まれた学問が地政学(ジェオポリティクス)である。本書では、ごく初歩的な地政学的なものの見方を導入している。
地政学的発想の切れ味、有効性を証明する一例を挙げてみたい。日本が第二次世界大戦に敗れた理由は何か? という問いの答えを考えてみよう。
常識的な答えは「軍国主義者の無謀な国策が原因」というものだ。これは「日本は侵略国で悪い国」という東京裁判史観から導き出される解答である。こういう自虐的な解答からは、国益を推進する外交は生まれてこないし、それでは北朝鮮による拉致被害者を救い出すことは永遠に不可能である。これはまったく後ろ向きの発想だ。
しかし、地政学者だったら、敗戦の理由をたとえば、こう答える。
「第1に、本来海洋国家である日本が、シナ大陸の内乱に過剰介入し、国力を浪費し、さらにアメリカとの戦争に突入してしまったこと。第2に当時の世界の3大シー・パワーは日英米の3国であったが、日本が孤立化して、英米の2大シー・パワーを連合させてしまい、これで圧倒的に不利な2正面作戦を強いられたこと。さらに、大陸国家ドイツや半島国家イタリアとの同盟は、日本とヨーロッパの間の距離的隔たりもあり、英米の2大シー・パワー連合と戦う際には、ほとんど役に立たなかったこと」
地政学的発想からはこのように、「今後の国家戦略をどうしたらよいか」という前向きの教訓が得られる。
この視点・発想で現在の日本を眺めると、第1に、今でも、チャイナへの経済的過剰介入は、シー・パワー日本にとって極めて危険だ、ということに思いいたるはずである(たとえそれがアメリカとの対立は生まないにしろ)。
また、シー・パワーであるアメリカとの連合はどうしても必要かつ自然なものであり、海洋アジア諸国(台湾からインドネシアにいたる)との連携もシー・パワー日本にとって必要でもあり、また国益の推進にもかなっている、ということがわかるだろう。
本書は筆者が2003年に上梓した『「世界地図」の切り取り方』(光文社)の前半部分を改訂・加筆したもので、新しい地図やチャートも複数加えてある。
この混沌とした時代を、日本人が自信をもって生き抜くために、本書が少しでもお役に立てば幸いである。



目次


はじめに
◆現代でも通用する地政学の英知
◆「地政学」とはどういう学問なのか
◆「地図の読み方」を知らない日本人
◆混沌とした時代を自信を持って生き抜くための知恵

1 視点の転換 ── 見方を変えることの重要性を知る
◆人は生まれたところの地図に縛られている
◆視点の転換によって見えてくる別世界
◆イギリス人はオーストラリアをどう見ていたか
◆地政学の考え方はきわめて重要
◆世界ビジネスは地政学抜きに展開できない

2 シー・パワーとランド・パワー ── 海洋国家・日本の原点を確認する
◆日本は典型的なシー・パワーである
◆シー・パワーとしての日本の自己規定
◆地政学で使われる概念を知っておこう
◆地政学理論はどのように発展してきたのか?
◆イギリスの基本戦略に学ぶべきこと
◆3B政策と3C政策の実際
◆朝鮮半島は日本のバッファーゾーン
◆満洲までが日本の限界だった!
◆シー・パワーの自覚なく兵站まで無視した
◆軍事とビジネスの本質は同じ
◆チャイナ艦隊はマゼランより先に世界一周をしていた?
◆ランド・パワーだった国がシー・パワーになった実例はない
◆モンゴル帝国の再評価とグローバリズム
◆ランド・パワーとシー・パワーを兼ね備えた国家

3 信仰にも似たアメリカの戦略 ── どうやって形成されてきたか
◆近代世界をつくったのはヨーロッパ中心の地図
◆なぜ日英同盟は成立したのか?
◆フランス革命はイギリスの大陸政策?
◆日本と大陸・半島は水と油の関係
◆アメリカを知るための3つのキーワード
◆人間は「生命と自由と幸福追求」の権利をもつ
◆「モンロー主義」とは「鎖国」のことではない
◆アメリカの世界戦略
◆アメリカにおける保守とリベラルの違い
◆ヨーロッパとは違う、その外交姿勢
◆ブッシュはアメリカ人の本音を言った
◆なんとアメリカとソ連は隣国だった
◆キューバはアメリカの喉元につきつけられた匕首
◆「善悪二元論」から「トータル・ウォー・アプローチ」へ
◆トランプの外交姿勢はどうなるか

4 2つのランド・パワー ──「ロシア」「チャイナ」の視点で地図を見る
◆大陸国家ロシアの防衛を理解する
◆ロシアによるクリミア併合の意味を考える
◆なぜロシアはクリミアを取り戻さねばならなかったか
◆ロシアから見ると日本がいかに邪魔かわかる
◆「ランド・パワー」チャイナの野望
◆北京の生命線は遼東半島と山東半島

5 アジアと東シナ海、南シナ海 ── 台湾防衛の意義とは
◆ベトナム戦争と朝鮮戦争の地政学
◆冷戦下の韓国は島国だった
◆戦略原潜・南シナ海の重要性
◆台湾防衛の意義
◆チャイナの日本に対する「超限戦」
◆チャイナのインドシナ半島支配と鉄道
◆チャイナによるインドシナ半島河川支配
◆現在の東アジア情勢を総括する

6 中近東とイスラム社会 ── ISとクルド独立
◆ISはなぜ出てきたのか
◆クルドの独立
◆クルドの独立に向けて、日本はどうすればよいか

7 日本の地政学 ── シー・パワーであることに目覚めよ
◆海洋国家・日本のなすべきこと
◆東京から見渡した世界はどうなっているのか?

8 覇権国交替の法則 ── 近代的価値観崩壊の時代へ
◆空白の100年を経たスペイン→イギリスへの覇権交替
◆ランド・パワーを3度退けたシー・パワーのイギリス
◆米ソ冷戦から近代的な価値観崩壊の時代へ
◆日本は今後どうすべきか

おわりに
◆『「世界地図」の切り取り方』復刻に寄せて

《巻末付録》「ランド・パワー」が「シー・パワー」になり得た実例はない
1)モンゴル帝国はシー・パワーではなかった
2)チャイナがシー・パワーに成れない事を証明した鄭和の大海洋遠征
3)明朝・清朝の海禁策について
4)漢民族のもつ海洋に対する恐怖心
5)ランド・パワーとシー・パワーを兼ね備えた帝国の存在
6)警戒すべきチャイナの海軍力
7)モンゴル帝国の偉大さ


 

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