親から始まるひきこもり回復

心理学が導く奇跡を起こす5つのプロセス

桝田 智彦 著 2019.03.28 発行
ISBN 978-4-8024-0068-8 C0037 A5並製 304ページ 定価 2200円(本体 2000円)

「はじめに」より

親から始まるひきこもり回復

親が取り組む本当の意味——薬で心の問題は解決できない
「ひきこもるわが子をしっかりひきこもらせ、助言や強い働きかけを一切止め、“親がちゃんと聴くこと”に取り組めば、ひきこもりの問題は必ず解決・回復の方向へ向かっていきます」

こんなことを言われたら、あなたはどう思われますか? 「そんな夢みたいな話、信じられないよ」「魔法でもない限りあり得ない!」と思われたかもしれません。
今この本を手にとって下さった方は、わが子がひきこもっていて悩んでいる親御さんか、ひきこもり状態の親族や親戚がいらっしゃる方かと思います。
そして、この本のタイトルにある「親から始まる」という言葉に注目され、疑問に思われたからこそ、今ページを開いて下さっているのだと思います。
とはいえ、「自分はちゃんと話をしている!」「そもそもわが子が心を閉ざしていて、声を何年も聞いていない」「すれ違いの生活で姿も見ない」「ひきこもられて困っているのはこっち(親)なのに、なんでわが子の話を聴かなきゃならないのだ!」など、いろいろな感想をお持ちになるでしょう。
そもそも、「話を聴く」なんて、そんなありふれた方法でひきこもりが治ったら世話ないよと笑われるかもしれません。しかしながら、わが子の話をちゃんと聴く姿勢が親にできれば、親子関係断絶状態、完全無接触、無言・沈黙、混乱・錯乱、強迫行動、被害妄想、暴言・暴力など……、全てのひきこもりは回復していくのです。
実は、「話の聴き方」というものは心理学的に確立されたものが存在するのです。これは剣道や柔道などの型と呼ばれる「基本みたいなもの」と思って下さるとよくて、特段ひきこもりの回復に関しては、この型が非常に大切になってくるのです。それでも、「型があるのは分かったけど、親が話を聴くだけではどうにもならない気がするぞ」とも思われるかもしれません。しかし、ここに大きな誤解・勘違いがあるのです。
それはきっと、「家庭で起きたひきこもりの問題が親の力ではどうにもならないから、病院や支援施設(保健所、精神保健福祉センター、ひきこもり地域支援センター、近隣カウンセラー、就労支援施設など)の専門家が存在するのだ」という既成事実を当たり前に受け入れてしまってらっしゃるからだと思います。だからこそ、「親から始まる」という言葉が謎を呼ぶのかもしれません。 一方で、勘のよい親御さんですと「他でもないわが子、わが家で起きた問題」であるからこそ、「親にしかできないことがあるのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。どちらにせよ、この疑問に対してまず私がお話させていただくことは同じ。

「薬は悩める人の心の問題を根本的には解決してくれない」
「ひきこもりの絶望状態にいる人に対しての心理療法はほぼ無力である」

どういうことかと申しますと、こと心の問題に対して処方される向精神薬(以下、薬)は脳内伝達物質を調節してくれる機能を有しますが、作用としては「苦しみや不安、緊張を和らげてくれる効果」に概ね限定されるからです。それで楽になり、人生にゆとりを取り戻すきっかけとなる力があることを私は認めておりますし、どちらかといえば、薬を使うことに対して私は肯定的な立場におります。
しかしながら、薬だけでは、ひきこもりの絶望状態にいる青年(幅広い男女を含む。以下、青年)の心に宿る「根本的な問題」、すなわち絶望感や孤独感、苦しい思い、人や物事への強く狭窄した考え方、漫然と心を埋めていく将来への不安、自分の存在意義への葛藤、自分の命の価値への疑念などを解決するのは不可能なのです。


目次


はじめに

序章 親育ち・親子本能療法——親が取り組めば回復は約束される
 親育ち・親子本能療法とは
 回復するための5つのプロセス
 ひきこもりと親子関係① 親の価値観
 ひきこもりと親子関係② 親が子を守る!
 ひきこもりと親子関係③ 子が親を守る?
 親育ち・親子本能療法の前提「愛の定義」
 「親育ち」とは自分を変えること!?
 親育ち・親子本能療法と不登校
《コラム》ひきこもりをひもとく最新現状 脳科学から考えるひきこもり支援法

第1章 「希望」のプロセス——絶望から希望へ必要なのは無条件肯定が作る「安心と安全」の風土
■「希望」のプロセス・目的
01 ひきこもりの回復には親の参加が絶対条件 〜親子関係断絶、無言の子のワケ〜
02 絶望から希望へ、全ての始まりは「親子の信頼関係」から
03 親が無条件に見守り、理解し、付き合えるのに何年?
  【事例】
04 安心してひきこもらせる 〜マズローの欲求階層説〜
05 安心できないひきこもり環境
06 ひきこもりビリーフ(特有の不合理な信念)
07 親の正論はいらない 〜百害あって一利なし〜
08 脅しや兵糧攻めの無意味さ 〜回復データはゼロ〜
09 声かけの大切さ 〜なにゆえに大切か〜
10 無条件の肯定的関心① 〜安心・安全の風土を根づかせる〜
11 無条件の肯定的関心② 〜わが子が元気になる魔法の言葉〜
12 昼夜逆転、パソコン、ゲームの依存状態について
  〜生活リズムを戻すのは先か後か〜
13 お小遣いをあげるべきか、あげないべきか
14 きょうだいを回復のプロセスに巻き込まない
●「希望」のプロセス・まとめ

第2章 「意思」のプロセス——良いも悪いも親がすべて聴き取る
■「意思」のプロセス・目的
01 社会的欲求の始まりと「吐き出し」
02 「親を守ってきた」わが子の気持ちに気がつき、寄り添えるか
03 親のせいにして復活していくもの
04 悪化してしまったの? 〜神経症の始まり〜
05 無条件の肯定的関心③ 〜落とし穴!〜
  【事例】
06 親の正念場 〜本当にこのやり方で正しいのか?〜
  【事例】
07 「親が育つ」むずかしさ
08 衝動性、暴力に対する親の姿勢
09 性に対する親の姿勢
10 混乱・錯乱で入院ということもある
  【事例】
11 退行の現実と親の引き受け方
  【事例】
12 当てになる親 〜親の成長、広がる価値観が子の世界を広げていく〜
13 日々新た! 言の葉を追いかけず家族の一員として扱う
14 無条件の肯定的関心④
 〜でも・だけど・たら・れば・しかし、良かれ言葉の罠〜
15 大切な夫婦のコンセンサス 〜子が正直になる時期〜
16 子が主役、親は信じて待てるか?
17 「絶対、働かない宣言」の読み解き方
18 親のあり方は、親の人生優先か自己犠牲か
《コラム》心身が反応し出す微熱・高熱は回復の目印
●「意思」のプロセス・まとめ

第3章 「目的」のプロセス——少しずつ始まる行動
■「目的」のプロセス・目的
01 「働かねば」と「働きたい」は全く別物
  【快話法①】
02 働くことの前に「遊び」をすることが大切
03 失敗が見えていても、先手を打たない
04 頼まれたサポートはどんなことでも笑顔で引き受ける
05 家を安全基地にする
06 逃げる、避ける、断る、やめることの大切さ
07 ちゃんとひきこもる大切さ
 〜ちょっと動いたらすぐ疲れる数年間。気力・体力をつけていく大切なプロセス〜
08 「転ばぬ先の杖」の投げ方と投影
09 当たり前のことを当たり前に褒めるのが大事
  【事例】
10 指図はいらない、育むべきは「欲求感」
11 本人にとって回復する理由
●「目的」のプロセス・まとめ

第4章 「有能性」のプロセス ——自分はやっていける。時々、弱音。チャレンジの連続
■「有能性」のプロセス・目的
01 本格的な社会参加へ
02 ここでの社会参加を、まだ回復としない意味
03 弱音を大切に扱う 〜外在化作用〜
  【快話法②】
04 親の心配りが、わが子を救う
05 ノーと言えて初めて自立、人に頼れて一人前
  【快話法③】
06 本人がカウンセラーの知恵と力を借りることも
07 生きる本能とトラブルはハッピーセット
08 アドバイスは求められても、すぐには答えない
●「有能性」のプロセス・まとめ

第5章 「アイデンティティ」のプロセス——自分は自分で良い。そして社会からもそう思われているという確信
■「アイデンティティ」のプロセス・目的
01 自分は「自分で良い」と思える尊さ
02 自分を信じる力、他者と揉める力、助けを求められる力
03 自己実現に向かう
04 親も子も「愛と信頼」と「自立の人生」を
●「アイデンティティ」のプロセス・まとめ

終章 回復した事例と8050問題——ひきこもりから自己実現とアイデンティティの獲得。親が子に残すべきもの

 【事例】
 8050問題、親が残すべきもの
 【事例】
 おわりに 支援者の皆様へ
 筆者の体験
 引用と参考文献




 

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