中国が仕掛ける東アジア大戦争

安倍晋三元首相が提唱した「インド・太平洋構想」が世界を救う

ペマ・ギャルポ 著 2022.10.10 発行
ISBN 978-4-8024-0144-9 C0031 四六並製 224ページ 定価 1540円(本体 1400円)

日本は今、自らの国防と、中国の覇権主義、そしてアメリカをはじめとする民主主義国の混迷といった、様々な問題に立ち向かわねばならない時なのだ。ウクライナ戦争は、世界秩序を大きく変えた。ある意味、「第三次世界大戦」は、すでに様々な形で始まりつつあるのだ。欧米・ウクライナ対ロシア、中国とロシアの関係、アメリカと中国、さらに中国、アメリカ、そして日本と各アジア諸国との関係。これは単純な方程式では解けない。日本は欧米一辺倒ではなく、中国の侵略に対峙しつつ、同時にここアジアの中で、どのような戦略を構築するかを考えねばならない。本書はそのために、歴史的文脈から現状分析に至るまで、様々な視点を通じてこの難しいテーマに挑んだものである。(本文より)

「はじめに」より

中国が仕掛ける東アジア大戦争

本書をほとんど書き終えた後、元ソ連共産党書記長ゴルバチョフ氏がお亡くなりになり、そしてイギリスのエリザベス女王が崩御された。このお二人はともに、二十世紀の世界において大きな役割を果たされた方であり、私も心から哀悼の意を表したい。安倍晋三元首相の暗殺に相次いで、二人の偉大な人物が世を去ってしまった。
ゴルバチョフ氏のペレストロイカは、ソ連共産党の独裁体制に風穴を開け、最終的にはソ連解体と東欧民主化、東西冷戦の終結という大きな世界の変化をもたらした。現在のロシアではゴルバチョフ氏はむしろ大国ロシアを解体し、社会を混乱させた破壊者という批判もある。本書でも触れたプーチン大統領と彼を支持するロシア民衆や思想家も、同様の意見を持っているだろう。だが、私はやはり、世界の民主化を大きく促進させた人物として、ゴルバチョフ氏を「二十世紀の偉大な政治家」と讃えたい。中国や北朝鮮にあのような政治家が生まれないことが、アジアの民主化を大きく停滞させているのだ。
エリザベス女王はその生涯を通じて、イギリスの激動の現代史において常に国家の象徴として歩まれた。第二次世界大戦中、王女として進んで軍を激励するとともに自ら軍務にも就き、戦後もイギリス植民地帝国の崩壊、経済の行き詰まり、サッチャー政権の新自由主義、ブレア首相の改革、そしてEU離脱など、様々な問題を抱えてきたイギリスが、世論の分断をかろうじて避け一体性を保ってきた大きな理由の一つに、エリザベス女王が国の要の存在として、国民の大きな精神的支柱となっていたことがあるのは間違いない。そして、植民地は独立しても、ソロモン諸島やオーストラリア、カナダなど十五カ国が、今でもイギリス連邦としてイギリス国王を王位に仰いでいることは忘れてはならない。
中国が南太平洋やオーストラリアに侵略の手を伸ばしている現状、太平洋諸島の国々を自由の側につなぎとめるために、イギリス連邦の存在は今後ますます重要になってくる。
そして、私が今後アジアや世界の支柱となると期待しているインドが、ゴルバチョフ氏に対し重要なコメントを残していることを強調しておきたい。まずゴルバチョフ氏がインドを訪問した際、インドのガンジー首相は次のように述べている。

一九八八年二月に、ゴルバチョフ=ソ連共産党 書記長が来訪した際の歓迎演説で、当時のガンジー首相は『ペレストロイカ』を評価しつつも次のように強調した。 「われわれの任務は経済開発や安全保障を超えたその先に及ぶものである。科学技術の発展は物資的成長を可能にし、貧困の追放への道を開くものではあるが、科学技術は、精神的なものと融合した場合にのみ、国民と国全体が充実した生活を送るために必要な価値を支えることができる。単なる物資的繁栄は、インド文明を数千年にわたって支えてきた基本的価値観から遊離したものであれば、なんらの満足を与えてくれるものではない」
(野田英二郎(元駐インド大使)『海外からみた日本、世紀末の再考』露満堂)

この堂々たる発言は、その後、ソ連崩壊と同時に急速に海外資本が流入し、ある種のマフィア経済ともいうべきやみくもな経済自由化が行われることによって、富の格差、社会秩序の混乱がもたらされ、逆に秩序回復のために強権的、独裁的な政権が復活してしまう未来を予言していたかのようだ。
今、ロシアや中国だけではなく世界全般が、この混迷の中にいるように思えてならない。そこからの脱出の道を、私は仏教精神と民主社会主義に見出している。本書が多くの読者にとって、現代の諸問題を考えるうえで有益なものになることを祈っている。



目次


はじめに

序章 「第三次世界大戦」は始まっている
一九五〇年のチベットと現在のウクライナ
平和への幻想が侵略者を助ける
政治家の役割とポピュリズムの危険性
ウクライナから考える今後の世界
第一章 安倍晋三元首相を偲ぶ
「戦後日本が生んだ最も偉大な政治家の一人」
安倍晋三氏の打ち出した原則と理想
中国とも対話を求めた安倍晋三氏
インドとブータンの安倍晋三氏への深い共感
暗殺という言葉を避ける日本の報道姿勢
安倍晋三氏の国葬は民主主義を守る国際社会への決意表明である

第二章 中露同盟があり得ない歴史的根拠
利用し、利用される二人の独裁者
戦争を求める毛沢東と否定するスターリン
新たな中ソ条約が朝鮮戦争における中国軍派遣を導く

第三章 七〇年代の中ソ国境紛争
中国の核開発のはじまり
ついに発生した中ソの軍事衝突と米中接近
中国政府による堂々たるモスクワオリンピックボイコット宣言

第四章 プーチンによる侵略の正当化
ウクライナ戦争のはじまり
プーチンの歴史観「ウクライナとロシアは一体である」
プーチンの歴史観「ソ連共産党こそが民族問題を作り出した」
プーチンの政治体験とユーラシア主義

第五章 習近平の台湾侵攻とナチスとの類似性
ヒトラーのズデーテン侵攻は「民族自決論」を歪曲したもの
独裁者の侵略を正当化する「失われた領土の回復」論
北朝鮮や中国の「領土の回復」「領土の統一」の論理
侵略を正当化する「他国で迫害される同胞の救援」論

第六章 中国の南太平洋戦略
中国による南太平洋諸島への侵略
習近平政権がばらまく援助の罠
アメリカの巻き返しと日本の関与
失敗に終わった中国の計画
自由で開かれたインド太平洋構想の意義

第七章 これからの世界はインドの視点で見よ
インドとロシアの軍事的関係
アメリカにはパキスタンを支持してきた歴史がある
インドのソフトパワー外交とアメリカとの軍事的連携
アジア諸国を説得すべき日本の立場

第八章 ペロシ訪台──「冷戦」から「熱戦」へ
ペロシ議長の一貫した対中姿勢
ペロシ台湾訪問は民主主義の独裁に対する勝利だ
台湾危機を乗り越えるための憲法改正
第九章 民主社会主義とアジア的価値観の合体
中国の「ウルトラ資本主義」を笑えるのか?
アメリカの分断は過剰な民主主義の結果
今こそ「民主社会主義」の再構築を
「仏教と民主社会主義の融合」こそ世界平和のカギ

おわりに

 

お勧めの書籍