いい子を悩ます強迫性・パーソナリティ「障害」全対応版Q&A

現代に急速に広まりつつある若者を襲う難解な「心の病」を救う

富田 富士也 著  2014.09.15 発行
ISBN 978-489295-977-6 C0037 A5並製 384ページ 定価 2750円(本体 2500円)

日本図書館協会選定図書

「本書を読まれる前に」より抜粋

いい子を悩ます強迫性・パーソナリティ「障害」全対応版Q&A

本書のテーマであるパーソナリティ「障害」は「引きこもり」の相談活動から始まる私のカウンセリングにとって人間関係とは何かを深く心に問いかけるものです。それは「けなげさ」と「むくわれなさ」との出逢いであり、他者に対する「いたわり」や共感する心の回復です。

「手のかかる」子どもや、若者が「困った子」として、特別に問題視されていく社会風潮を感じます。つまり「手のかからない子」が「いい子」になっているのです。そのため「手のかかる」ことを自然な育ちとして受け入れる心は忘れがちです。だから「いい子」の心はかまってもらえない寂しさで愛着飢餓です。

さらにその孤独感から自らを否定的に思い込んでいくこともあります。それが適応「障害」的な言い方で広まったりします。たとえば、パーソナリティ(人格)「障害」と見立てられていく人たちです。それは「病気」とはいえないが、生活上の生き(息)づらさ(ストレス)が臨界点を越えた状態にある人たちといえるかもしれません。もちろん周りもそのことに無縁ではいられない生活上の「障害」をかかえたりするのです。だから「障害」は問題とする側の問題でもあるのです。したがって「病気」ではない「障害」が「病気」としてラベリングされ特別な対象にされていくことには慎重でなければなりません。本書は「手のかかる」ことを人間関係の学びにして、関わる親や家族、周りの大人の働きと本人の努力によって、いたわり、ねぎらいといった共感的な心を育てる本です。

さて、好きな人とは付き合って、苦手な人には距離をおいて暮らしていければいいのですが、集団のなかで生きていくには、嫌な人とも話さなければ孤立してしまいます。そこで嫌ならその感情を自分の心にしまって付き合うのも人間関係のコツですが、そう器用にはいきません。

子どもも大人も人間関係のなかで暮らしています。インターネットの文化がいくら進化しても、それは“情報交換”であって、息づかいのある生身の“会話”にはなりません。

だから人の輪のなかで、自分という「個」をどう維持し、漂わせるかは大切な人間関係の“学習”です。

このところ人とふれ合いたいのにふれ合えないコミュニケーション不全の「引きこもり」を心の奥底にかかえつつ、不登校、進路変更、就職活動の行き詰まりを切っ掛けに「強迫性障害」とか「パーソナリティ(人格)障害」という病を心配する相談が顕著になりました。医療機関で診断されて相談室にカウンセリングを受けに来る子どもや大人も増えています。また自分自身でもそのように「見立て」ている人もいます。その「障害」は周りとの人間関係における「不適応」のことです。つまり「手のかかる」状態にあるのです。本人は心を持て余し、接する周りの人も「びくびく」するような、腫れ物に触る感じであったりもします。お互いに信頼関係を築くことに「手がかかる」状態です。

ところが心の状態は同じであっても「障害」(気になる)になる人とならない人がいます。本人も周りの人もそのことに苦痛でなければ「障害」と呼ぶ必要はありません。

さて「強迫性」とは「こだわり」であり「パーソナリティ」には片寄った「くせ」があります。それが生活上の許容範囲を越える退行や攻撃性から「障害」になったり、一定の距離を置くことで気にならなかったりするのです。

周りの人がその「こだわり」や「くせ」によって互いの人間関係を有効に働かすことができていれば、本人も困らないのです。完璧という「こだわり」が高く評価されるような芸術関係者のなかには、強迫性で仕事を成功させている人もいます。また「くせ」も“芸能人”の世界なら「面白い人」ですみますが、一般社会の生活者としてみると「めちゃくちゃ、破壊的な人」であったりするのです。そして日常生活の人間関係もその評価が維持されるかぎり周りも、その「くせ」や「こだわり」にあわせます。だから「障害」になりません。ところが状況が変わり、本人も周りに対してその場の人間関係の「空気を読む」必要がでてきたりすることがあります。しかし場の「空気を読むこと」ができずにいると不適応として「困った人」「変わった人」と言われたりします。そこで、周りに理解を訴えます。受け入れられないと衝動・退行的行動を起こすことがあったりするのです。

一人孤島で暮らすなら「空気を読む」ことができなくてもいいかもしれませんが、人間関係がある以上、そのことで相手も困まったりします。「お山大将、われ一人」では生きていけないということです。

本書刊行の願いは、その経験によってパーソナリティの変化、変容を起こし自分らしさを見失うことなく、人と仲良く暮らしていける心の距離感を見つけてほしいというところにあります。つまり、自分のパーソナリティを持て余している人は意外に他人のパーソナリティと出会っていないということです。そして出会えば気になっている「こだわり」や「くせ」も「持ち味」に思えたりするものです。そしてかつて日本人の文化にはそんな出会いを経験していくスキル(対処法)が、年代とともに用意されていたのです。手にしたこの本はその心の旅へ踏み出す応援の書です。

目次

 本書を読まれる前に

まえがき
 完璧が強迫観念をつくりパーソナリティを脅かす
 コストパフォーマンスで「引きこもり」化する子どもたち
 「折り合えない」苦痛
 人間関係には時間が必要
 “治療”には人が欠かせない

序章 心配ないからね“強迫性・パーソナリティ障害”
 ふきとれない親への不信
 髭のはえた“だだっ子”
 優しくされると怖い
 掛け直す手間
 切なすぎる心
 思い通りにいかない人間関係
 社会状況が“強迫社会”に
 親や家族の「強迫性」
 低年齢化する強迫性社会の弊害

第1章 心の「こだわり」「くせ」を子育ての見直しにできた家族
1 突然の反発が連日になったら「ほどよい距離」を意識して
2 本ばかりでなく対話することで実感できた「生きる意味」
3 心を持て余す若者が求めているのはねぎらい、察する共感の力
4 言っても仕方ない親への不条理は、甘える勇気で乗り切る
5 猟奇的表現は別な感情表現に言い換えて
6 おぞましい心を「ただ聞く」心得
7 生きているだけで実感できる自己肯定感
8 強迫観念と難病に後押しされて“楽”になる
9 考え直すチャンスとなった父親のこだわり
10 ふたしておきたい事もある
11 気づけなかった「善かれ」の代償
12 子どもの気づかいに学んだ母親
13 分かち合うことをつかめた母と娘
14 父親の成果主義と決別する息子
15 機嫌が直らないのは子どもより親
16 “偏屈”な教育方針に育てられたと言い張る娘に気づかされて
17 メールに頼りすぎて人間的な話し方ができないでいた父親
18 協調することが分かった幼稚園教諭
19 お金を無心する子
20 「めんどくさい」をなにかと優先する子
21 自分の「ムカつく」言葉と向きあえた母親 98
22 自信のない親に自信をつける娘
23 したり顔の父親と屁理屈の息子のいいところ
24 「薬」の話に不機嫌になる母親の理由
25 成熟の中の心の危機
26 探しつづけた信頼できる人
27 一方的に求めていたこと
28 受刑する両親を肯定するために考え抜いたこと
29 心の解離を救う原風景
30 「ただ居る」ことが尊い


第2章 単刀直入 素直になる道を閉ざされた子どもの難問に答える
1Q 自分で自分の心がわからない……
2Q 自傷行為がやめられません……
3Q いつか死ぬ日がくると思うと怖くなる
4Q 臆病な私は、すぐ心を閉ざしてしまいます
5Q 私もキレようと思っています
6Q 努力は必ず報われるのでしょうか
7Q 先生を困らせてしまう私は、最低の人間ですか
8Q 「普通」がわかりません
9Q いま一人ぼっちでキツイ
10Q 単身赴任の父と二人でいることが嫌で……
11Q 両親へ離婚の打診をしたいのですが……
12Q 短気ではすまない反抗的な行動を起こしてしまうのは……
13Q 家族が立派すぎて息が詰まりそう……
14Q 家庭の事情を詳しく知りたい子は「ヘン」ですか……
15Q 復縁したいという身勝手な母にどう接すればいいですか
16Q 自己中心的な母とどのように付き合えばいいのでしょうか
17Q 寂しがりやの私を母は嫌いなのでしょうか
18Q 母親に暴力をふるう父親が大嫌いです
19Q 兄と弟と母で、私を無視するのです
20Q 親が学校にほとんど来てくれない
21Q 自分がした「いじめ」を謝りたい
22Q 話を聞いてくれる人がいない……
23Q 心を開かないことは悪いことですか
24Q 保健室の先生にあこがれる僕……
25Q 自分でも登校できない理由が分かりません
26Q 期待にこたえようと努力していますが、上手くいきません
27Q 誰からも心を聞いてもらえる人になりたい
28Q 私だけを“独占”しようとする友だちがいる
29Q 先生は生徒一人ひとりのことを、考えていないのでは……
30Q 親に「結婚するんじゃなかった」と言われたら子どもの僕はどうしたら
31Q 調子のいい大人の発言が皮肉に聞こえる……
32Q カウンセラーや精神科医も信用できません
33Q 自信がポキポキに折られた感じです
34Q 癒し系の宗教に誘われて
35Q 「塾をやめたい」と親に言えません
36Q 出会いに構えてしまいます

第3章 家族が「びくびくしない」本人も「させたくない」対処Q&A
Q1 心の「こだわり」「くせ」に苦しむ子どもの気持ちとは(手記)
Q2 パーソナリティ「障害」の子は、かつて「いい子」と言われていることについて
Q3 父親として何かしてあげられることは(手記)
Q4 子どもに申し訳なかったと気づきましたが、どう表現したらいいのか分かりません
Q5 いくら励ましても否定的です
Q6 「一人がいい」と人との関わりを拒みます
Q7 強迫行為にいつまでも付き合わされてしまいます
Q8 判断を求めておいて答えると怒ります
Q9 夫の理解、協力がありません
Q10 妄想的な話にへき易しています
Q11 付きまとわれている感じです
Q12 ネガティブな話に付き合わされ親まで不健康になっています
Q13 「こだわり」や極端な「くせ」がとれたら日常生活ができますか
Q14 親ではなく親戚の立場でできることは
Q15 いつまで空しい親への恨みを言い続けるのでしょうか
Q16 顔や体型にこだわり過ぎているが……
Q17 受診する気がありません(手記)
Q18 「心の病」が治らないと動き出せないのでしょうか
Q19 無理と分かっているのに前向きなことばかり言います
Q20 同じ質問を何度も聞いてくるのは
Q21 子どもと気長にと思っても、くどい子についキレて暴言を吐いたり物に当たります
Q22 子どもにどう“弱音”を吐けばいいのか分かりません
Q23 子どもの鼻持ちならないプライドを「いたわる」とはどういうことでしょうか
Q24 「心理的虐待」という言い方で詰め寄ってきます
Q25 精神科通院に慎重な学校の担任に対して、どうすればいいのでしょうか
Q26 子どものことが心配で仕事をやめようと思っていますが
Q27 自分でやるべき事をやらない子に注意できません
Q28 親への攻撃はすみましたが、冷めた感じが気になります
Q29 「ただ聞ける」親になりたいのですが……(手記)
Q30 子どもの言動が映画『男はつらいよ』の“寅さん”そっくりで困っています
Q31 ネット依存で子どものパーソナリティ(人格)はどう変わってしまうのですか

あとがき 家族である“必然性”が子どもの自己肯定感とパーソナリティを豊かに育てる
 パーソナリティ「障害」は甘える勇気を学ぶことから
 「いい家族」でなくてもいい
 「手間のかかる家族」を築く



 

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