中日新聞 2001.11.30「千字百花」から

子に学ぶ親の夢

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ぼくはゆうれい

 

 

 幼い子どもを抱えた主婦にとって、自分の時間を持つことがいかに難しいか。今、小学2年生になる息子を生んで以来、ずっと感じてきた。初めのうちは子育て自体が自分のやりたいことだった。しかし、成長していく子どもの姿に、自分の子ども時代を見るようになると、いずれ巣立っていく姿が想像される。私もいつか子離れをしなければならなくなる時期がくる、とほのかに感じていた。

 そんなある日、息子にこう聞かれ、強い衝撃を感じた。「お母さんは将来、何になりたいの」。やりたい仕事に就き、出産を機に退社。以来、子育てと家事一筋の生活を続けてきた。でも、来年には下の娘も幼稚園に入れる年齢になる。「まだ自分の夢を持ってもいいんだよ」と、背中を押された気分になった。

 でも、私に何ができるだろう。子どものころから絵を描いたり、お話を創るのが好きだった。出産前の仕事は、幼児向け玩具の企画とデザイン。漠然と絵本作家になれたらいいな、と思ってはいたが、落ち着いて絵を描く時間などとれないのが現実だった。

「第6回ほたる賞 いじめをなくす童話募集」の新聞記事を見たのは、そんな時。童話は私にとっても未知の世界だったが、「ひょっとして、文章なら子どもの相手をしながらでも書けるかも」と、思い付くままを広告紙の裏の白い面に書きつづった。左手に娘を抱き、洗濯機のふたを机代わりにする。断片的なエピソードを午前3時、4時に起き出してまとめ、朝食の支度を始める前に切り上げる。

 ワープロもないわが家では、書きためた文章を原稿用紙に清書するのがまた一苦労。せっかく書いたのだから応募しなければ、とずいぶん無理をした。それでも書き上げることができたのは、書き進むうちに子どもたちに伝えたい、という思いが強くなってきたからだ。

 相手を理解することの大切さ。理解を得るための努力の重要性。生きていく上で悲しいことは起こるけれど、あきらめなければ必ず未来への糸口が見つかるということ。そして何より“命の大切さ”。面と向かって話せば説教じみてしまう事柄が、童話ではすんなりと書けた。

 子育てはとにかく手をかけてが基本だと、あれこれ世話を焼いてきた。でも、子どもは日々成長していく。親も夢に向かって努力し、いつかそれを成し遂げる。そんな姿を子どもに見せることを目標に、もう一度自分の夢を持ってもいいと思えるようになった。結局は子どもに教えられてばかりいる。

 

 

ほたる賞を受賞した主婦 坂の外夜

 

 


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