読売新聞 2002.03.06 「顔」より

障害をもった教え子との約束を童話にまとめた

鎌田俊三さん

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モンゴルで先生と一緒に白い馬に乗って、馬頭琴を聴きたい。そんな夢を残して亡くなった教え子のやちゃんのために、実際に現地を旅して、出会いの喜びを童話「スーホの白い馬に会ったよ」(ハート出版)にまとめた。
やっちゃんは、脳性まひの障害を持つ中学1年の少年だった。出会いは、新米教師として広島県福山市の肢体不自由児医療施設に赴任した1980年。遊牧民スーホの馬が死んで、楽器の馬頭琴になったというモンゴルの民話を読んでやると、興味深げに聞き入った。
その彼は93年、大阪の施設でやけどを負い、亡くなった。夢に出てきて「まだ連れて行ってくれないの」と促され、2年前に写真を胸ポケットに忍ばせてモンゴルへ。やっと白い馬に乗る約束を果たせた。
 物語の結びで、「先生は馬頭琴の音色が、天国のやっちゃんに、届いたような気がしてました」と、自らの思いを主人公にだぶらせた。
 大学時代ボランティア活動で障害を持つ子どもと接し、宮城まり子さんの「ねむの木学園」の映画に感動。「いい人ごっこをしている自分を超えたい」と、今の仕事を選んだ。感情を素直にぶつけるやっちゃんから教えられることも多かった。
全国の小学校や公民館を訪ね、この本を紹介しようと計画している。「多くの子どもに、やっちゃんに出会ってほしいんです」。それが障害を持つ子どもへの理解につながると信じている。
(広島総局 久場 俊子)

 


ハート出版