下野新聞2007年1月7日

「ぼくを救ってくれたシロ」 著者・祓川学さんに聞く

実話を取材
家出して、足尾銅山跡の洞窟で数年間愛犬と暮らした少年…

生きる強さを伝えられたら

八人兄弟で貧しく、いつも親からせっかんを受けていた群馬県出身の加村一馬さん(60)が、その辛さに耐えかねて家を飛び出したのは1959年、13才のときだった。その後、足尾銅山跡の洞窟で数年間、愛犬シロと狩りをしながら生活。シロと死別後は、近隣の山や川沿いを転々とし、40年以上荒野で暮らし続けた。最近出版された加村さんの体験に基づく物語「ぼくを救ってくれたシロ」の著者で、ノンフィクションライターの祓川学ぶさん(41)に執筆の背景、思いなどを聞いた。


――加村さんとは、どういう知り合いだったのですか。
「2003年9月、空腹だった加村さんがある事件を起こし、43年間荒野暮らしをしていたことなどが、新聞で報道されました。その後、加村さんと半年近く行動を共にし、驚愕の人生を取材させてもらいました。」

――『ぼくを救って――』は、足尾の数年にわたるシロとの洞穴生活にスポットを当てた児童書。なぜ子供向けに書こうと思ったのですか。
「加村さんと現地に何度も足を運んだが、洞穴に寝るのは私自身も怖かった。これを子供だった加村さんが体験したのはすごい。人間やれば何でもできるんだな、と感じました」
「たき火の火を見つめ加村さんは『山の中で経験した術を、子供たちに伝えられたらどんなにうれしいことか』と話していた。私も、かつて読んだロビンソン・クルーソーのような、生きるたくましさを伝えられたらと、何度も何度も書き直し、ようやく完成させました」

――なぜ加村さんは、想像を絶するような洞穴生活を続けられたのでしょう。
「一人で家を出て足尾に向かう途中、くじけそうになった。しかし追ってきたシロと再会し『一緒に生きていくんだ』という希望を見いだせた。加村さんにとってシロは心の支えだった。たった一匹の犬にも人間を支える力があるのだと思います」

――今、全国にいじめやいじめによる自殺が問題になっています。本書は、さまざまなメッセージを含んでいますね。
「人も昆虫も花も、生き物はいずれ死ぬ。死んだら生き返らない。加村さんが愛し続けたシロが亡くなる場面で、命がどんなに尊いか、感じてもらいたいです」
「世の中には、阪神大震災や新潟中越地震などで家族がバラバラになってしまった人、重い病気になりながら『生きたい』と闘っている人もいる。加村さんが生き抜いたように、人間は想像できな未知の力、生きる力を持っている。道はいずれ開ける。だから自信を持って、強く生きてほしいと願っています」



下野新聞2007年1月7日

 


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