普及版[復刻版]一等兵戦死

松村 益二 著 2022.12.06 発行
ISBN 978-4-8024-0147-0 C0021 新書版並製 248ページ 定価 1210円(本体 1100円)


昭和12年、中国・上海近郊の戦線で、一等兵たちの壮絶な戦いが始まる。
過酷な戦いの日々、つかの間の休息、そして、突然に訪れる戦友の死。

──涙なくしては語れない、前線兵士たちの真実の姿がここにある。


僕は「戦友」という言葉が嫌いだった。 しかし戦線に立ってこの「戦友」という言葉の深さを知った。生命を一つに結び合わせて、友情以上の友情が僕たちには流れている。
たった一個、まったく一個のキャラメルを分け合ってしゃぶる他人と他人、一本の煙草を十人で喫う心、おのれの骨をたのむ心情は、決して軍歌の文句の絵空ごとではない。
僕は戦場の教訓をありがたいと思っている。(本文より)

「著者のメモ」より

復刻版 一等兵戦死

僕が支那事変のために応召したのは、昨年の夏だったが、戦いの期間は大へんみじかい。はずかしいくらいである。そしてその年の十一月に負傷して、各地の陸軍病院を転々として本年三月下旬、応召解除となり、最近再び応召したが、身体が悪いというので帰されてしまった。まったく、残念千万である。

ここに収めたものは、戦線で書いたもの、陸軍病院で書いたもの、および応召解除後に書いたものの三つにわかれる。そしてこれらの散文の大部分は、「大阪毎日徳島版」「グラフィック」「文藝春秋現地報告」に発表、また詩の一部は「セルパン」「グラフィック」「文化学院新聞」などに掲載された。

みじかい僕の戦争の体験である。立派なものの書けようはずがない。ただ、ほかのひとたちの描いたものと、多少味がちがっているところがあれば幸いである。十字火〔十字砲火〕の下の兵卒の姿がすこしでも描かれていたならば、よろこばしい。歩兵一等兵である著者には、一等兵のことだけしかわからない。

これらの散文、詩を書くについて、中島大毎内国通信部副部長、西川同徳島支局長の御力添えは忘れられない。また「グラフィック」の越寿雄氏の熱心なおすすめがなければ、この本の三分の一は生まれなかったろう。厚く感謝の意を表する次第である。

この本の原稿はバラバラのまま春秋社に送られた。僕の再度の応召のためである。したがって未発表の原稿など生のままで、めちゃめちゃな文章である。あれやこれやと筆を加えたいのだったがやむを得ない。──ただ、僕の支那事変の記念品としては、これはいいのかも知れないけれど。

昭和十三年十月三日夜
大阪毎日編集局にて
松村益二

目次


戦線の序章
上海の初夜
前線へ
燃え上がる敵意
敵意は益々熾んに

僕の参戦手帖から(1)
黒い一等兵
予言は取消し
ただの世間ばなし

僕の参戦手帖から(2)
紅葉潟の友情
お母あさん子
戦友
親ごころ

一等兵戦死

戦場の点
馬の眼
突撃の心理
晴れた日
哀れな豚
塹壕について

戦友の訣れ
とうもろこしちゃ
松と雁
戦闘記

詩集戦線
支那海
黄浦江
閘北の墓標
市街戦の跡
戦線街道
戦場断片
野営

戦線の土
戦後
陽だまりにて
敵屍
埋葬
攻撃準備
死馬
乾パンの歌
山羊のいる戦線にて
支那茶碗の哀愁
水牛の角
夕暮れ

上海戦線の余韻
花を惜しむ
紅茶の匂り
めぐり合うこと
めぐり合うこと(つづき)
戦死する兵士
花を抱いて
小輩来来
上海戦線の土
浄瑠璃どころ

戦線の土、故国の土
戦線と故国を結ぶもの
ペンも栄光に輝け
戦線美味求真
失礼なる風景
支那兵はのんきなのか
日本兵士のこわいもの
命がけのユーモア
残虐精神病者
手柄立てずに死なれよか
兵士のさまざま
うれし泣きの敵
戦線で祝う佳節
病院生活の話
故国の土に立つ



※本書は2018年に弊社より刊行された『[復刻版]一等兵戦死』を再編集し、普及版としたものです。


 

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