毎日新聞 2001.02.21より

馬頭琴の演奏家8月に読み語りコンサート

影絵劇演じた亡き教え子との約束果たし

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障害児学級教諭が思い出を本に

「やっちゃん、白い馬に一緒に乗れたね」−−モンゴル民話の影絵劇を演じて亡くなった教え子との22年前の約束を果たすため、広島市の障害児学級の教諭がモンゴルへ旅し、それまでの出会いや喜び、悲しみを本につづった。教え子の願いを知り、草原で馬頭琴(モンゴルの民族楽器)を奏でてくれたモンゴルの演奏家を招き、8月に本の読み語りコンサートを開く。【横田一】


 本は『スーホの白い馬に会ったよ〜天国のやっちゃん、モンゴルに行く』(ハート出版、本体1200円)。広島市中野小の障害児学級教諭、鎌田俊三さん(48)が書いた。鎌田さんは広島県福山市内の肢体不自由児(者)医療施設でおしえていた1980年、「やっちゃん」(当時中1)に出会った。大阪の父と離れ、体の訓練や勉強をしていたやっちゃんら4人の同級生にとって、心のバリアフリーが叫ばれる今と違い、健常者との交流教育も乏しい時代だった。
 その年、近くの中学校から文化祭に招かれ、国語の時間に習ったモンゴル民話「スーホの白い馬」を影絵にして、同中の障害児学級と合同で演じることになった。ポキンポキンと鉛筆のしんを折りながら下絵を描き、切り、白い馬や王様の影絵人形を作った。馬頭琴の音楽テープも流した。11月、力演に涙と大きな拍手がわいた。

モンゴルの白い馬に乗れたよ

「モ、モンゴルに、い、いったら、し、しろい馬に、あ、あえる? そ、そげんで、ば、ばとうきん、き、きけるかな」(本文のまま)。作業中から、やっちゃんの夢は広がり、「いつか行こう」と約束したが、27才の93年秋、やけどで不慮の死を迎え、かなわぬ望みとなった。
 鎌田さんは一昨年夏、やっちゃんの写真を胸にウランバートルを訪れ、遊牧民のテントで1週間生活、白い馬にまたがった。そして帰国の日。通訳の家族で、話を耳にして感激した馬頭琴奏者のツェレンドルジさん、ソエルさん父子が、チンギス・ハーン村で草原コンサートを開いてくれた。海外公演でも知られる父子は民族衣装姿で「天国へ届け」とモンゴル語で合唱したあと、静かに奏でた。
 鎌田さんは「なんとか約束を果たせた。障害があろうがなかろうが、夢を持ち続ける大切さ、命の尊さを感じてもらえたら」とハナしている。
 コンサートは8月24日、広島市の安芸区民文化センターで開かれる。費用は教員のカンパや本の売り上げなどを充てる。

 


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