実験犬シロのねがい

あなたは知っていますか?捨てられた犬がどうなるのか…

井上 夕香 作 葉 祥明 画 2012.08.10 発行
ISBN 978-4-89295-904-2 C8293 四六変形 188ページ 定価 968円(本体 880円)
小学校中学年以上向き

シロの存在は、たくさんの犬猫を実験の苦しみから救い出す大きな力に

実験犬シロのねがい

それは、クリスマス・イブの夜のこと。1匹の白い犬が星になりました。
その犬の名は、シロ。
わずか1年でしたが、シロは愛情をいっぱい受けて旅立てたのです。

シロは虐待を受け、動物管理事務所に連れてこられ、『実験動物』として病院に売られた犬でした。

『実験動物』というのは、医学の研究や、薬の開発のために、痛く苦しい目にあいながら、人間の身がわりとなって、生きたまま実験をされる、痛ましい動物のことです。

体を切りきざまれ、毒を飲まされ、苦しむ状態をつぶさに観察されながら、なぜ、自分が、こんなにひどい目にあわされるのかもわからずに、ひとりぼっちで死んでいくのです。

シロは、病院ですぐに脊髄神経を切断するという、とてもつらい手術を受けました。切られた神経が、どうやって回復するか調べる実験だといいます。

しかし、シロは手術の後、どんな手当もしてもらえませんでした。傷口が化膿し、下半身に膿がたまっていましたが、手術した医者たちは見にも来ません。手術で体力が衰えている上に、疥癬という皮膚病に感染し、全身の毛が抜け落ちました。

このまま放置されれば死んでしまう寸前で、シロは動物保護団体の人たちに助け出されたのです。

そして、かわいそうなシロの姿がいくつものテレビ番組で放映され、新聞や雑誌にも大きく取り上げられると、日本中からシロへの励ましと、病院への抗議が殺到しました。

これは、捨てられ、実験される犬たちと、そうした不幸な犬たちを救うために戦う人々の実話です。




目次

Episode: 1 ぐっしょりぬれた赤ちゃん犬
Episode: 2 犬を飼うこと
Episode: 3 もらい手さがし
Episode: 4 チビのゆくえ
Episode: 5 保健所で
Episode: 6 悲しい目をした犬たち
Episode: 7 実験に使われる動物たち
Episode: 8 実験動物への鎮魂歌
Episode: 9 檻の中
Episode:10 おかしな犬たち
Episode:11 救出
Episode:12 がんばろうね シロ
Episode:13 まごころが通じた
Episode:14 聖なる夜に
Episode:15 メリーの手紙

人間と動物 葉祥明

ずさんな動物実験の実態をあばき、犬猫の
実験払い下げを廃止させたシロの事件をふりかえって
    NPO法人 地球生物会議・代表 野上ふさ子


「シロの事件をふりかえって」より抜粋
    NPO法人 地球生物会議・代表 野上ふさ子

■払い下げの廃止へ
シロはなぜこんな目にあわされたのでしょうか。もし飼い主がシロを大切にしてくれていれば、動物管理事務所などに持ち込まれるはずがありません。また、管理事務所がもういちど新しい飼い主探しをしていてくれれば、実験に回されることもなかったかもしれません。
けれども、長い間、保健所や管理事務所では、新しい飼い主が見つかりやすい健康で人なつこい犬や猫はみんな実験に提供してきたために、新しい飼い主探しが必要だとは考えたこともありませんでした。また、実験者達もいくらでも簡単に犬や猫が入手できるため、手先の訓練や好奇心を満たすためだけの実験などで、動物の命を使い捨てにしているのです。
東京都ではこの当時、三十もの医学系大学や製薬会社などに毎年二千匹以上の犬と猫を実験用に渡していました。
そこで私たちはまず、都に対して、シロを渡した国立病院の施設を立ち入り調査すること、それから都が払い下げをしているすべての施設についても実態を調査の上、直ちに実験払い下げをやめるよう求めました。この調査の中で、ずさんな施設の実態がいろいろと明るみに出て、東京都は同病院への払い下げは即時廃止し、また同時に払い下げ自体を廃止していくことを約束してくれました。
私たちはこの事件をきっかけに、人々に動物を捨てないように訴えると同時に、実験払い下げを続けている道府県に廃止を求める活動を進めてきました。シロの事件があった一九九〇年(平成二年)当時は、約百万匹もの犬と猫が飼い主に捨てられ、行政の施設で殺処分されています。それから十年後の二〇〇〇年(平成十二年)には、殺処分数は五十数万に減少し、実験に回される犬と猫の数は一万匹まで減少し、そしてとうとう、二〇〇五年(平成十七年)度を最後に、実験への払い下げは、ゼロになりました。これは大変大きなできごとでした。また、私たちの会の調べでは、二〇一〇年(平成二十二年)には、飼い主に見捨てられ殺処分されている犬と猫の数は、約二十一万匹となり、二十年間で約五分の一まで減少したのです。私たちは一刻も早くその数をゼロにしたいと願っています。

■シロたちからのメッセージ
瀕死の状態で保護されたシロは、さやかさんたちのあたたかい世話を受け、健康を回復することができました。実験の後遺症は残ったものの、ふさふさと白い毛がはえ、見違えるように愛らしい犬になりました。そして、田舎の自然の中でようやく安心して幸せに暮らせることになったとき、思いもがけず、不慮の事故で死亡しました。十二月二十四日、クリスマスイヴの夜でした。
シロは実験室から生還してわずか一年しか生きることはできませんでした。推定年齢わずか二歳の短い一生です。けれども、シロの存在は、毎年何万頭もの犬や猫たちを実験の苦しみから救い出す大きな力となりました。このことは、日本の犬や猫たちをめぐる歴史の中で、忘れられない大きなできごとの一つであるにちがいありません。シロはきっと、そのために役目をもって生まれた犬だったと思います。
こうしている今もなお、シロのような犬たちが毎年何万となく、実験室の中でつらい苦しい目にあわされています。日本には、残酷で無意味な動物実験を監視して止めさせることのできる仕組みが、まだ何もありません。声のない動物たちの訴えに耳を傾けてみましょう。そうすれば、これから私たちが何をしたらいいか、きっとわかると思います。


 

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