朝鮮戦争で生まれた米軍慰安婦の真実

[文化人類学者の証言]私の村はこうして「売春村」になった

崔 吉城(チェ キルソン) 著 2018.06.29 発行
ISBN 978-4-8024-0060-2 C0021 四六並製 256ページ 定価 1650円(本体 1500円)

「はじめに」より

朝鮮戦争で生まれた米軍慰安婦の真実


今、日本と韓国とのあいだで、戦争中の性犯罪が問題とされている。いわゆる「従軍慰安婦」をめぐる問題である。そこでは、「強制連行」や「性奴隷」といった言葉が飛びかうが、この問題に関しては、慰安婦をどのように「強制」したのか、その強制性に絞って議論すべきであろう。つまり、強姦、人身売買、拉致、といったことが、慰安婦問題の核心なのである。
以下は、こうした慰安婦問題の動きを、年表にしたものである。

1982年9月2日 朝日新聞が吉田清治氏の講演を掲載
1983年7月31日 吉田清治・著『私の戦争犯罪』(三一書房)出版
1990年11月16日 「韓国挺身隊問題対策協議会〔挺対協〕」設立(代表・尹貞玉)
1991年8月11日 朝日新聞の植村隆記者が「元慰安婦」の証言を公表
1992年1月16〜18日 宮沢喜一首相が廬泰愚大統領に八回謝罪
1993年8月4日 河野洋平官房長官が「河野談話」を発表
1995年7月19日 日本政府が「女性のためのアジア平和国民基金〔アジア女性基金〕」を設立
1996年6月   国連人権委員会で「慰安婦」の数を二〇万人とした「クマラスワミ報告」
1997年1月15日 金泳三大統領「アジア女性基金」に遺憾
2002年5月1日 「アジア女性基金」韓国国内での活動終了
2005年3月1日 廬武鉉大統領、三・一節の演説で「慰安婦問題」に言及
2007年3月31日 「アジア女性基金」解散
2011年8月30日 韓国憲法裁判所の判決「元慰安婦へ補償を」
2011年12月14日 「挺対協」が日本大使館前に慰安婦像を設置
2014年6月20日 日本政府が「河野談話作成過程」の検証結果を公表
2014年8月5〜6日 朝日新聞が吉田清治氏に関する記事を取り消し

この年表を大学の講義で学生たちに見せたところ、韓国からの留学生たちが一斉に声を上げた。彼らは、宮沢首相が廬泰愚大統領に八回も「謝罪」したことも、河野官房長官が韓国に迷惑をかけたことを深くお詫びすると「謝罪」したことも、全く知らなかったという。だとすれば、日本国の総理大臣による八回もの謝罪は、いったい何だったのだろう。
慰安婦問題で韓国は、日本に謝罪を求め続けたいという気持ちが常にある。これは、韓国政府やメディアにバイアス(偏り・傾向)があるということを意味する。メディアというのは、客観的な報道が命であるはずだが、これはどういうことだろう。
実は、メディアにはそれぞれ偏向があるのである。新聞や雑誌でも、「右」と「左」が決まっている。私が北朝鮮で撮った映像を学生や市民に見せると、「メディアの映像と違って新鮮だ」と言われる。アメリカのトランプ大統領は、自分に気に入らないように編集されるメディアを「フェイクニュース」と言い切って、直接ツイッターなどで投稿するが、私には、その気持ちが十分に理解できる。

私は、朝鮮半島の、三八度線近くの南側にある小さな村で生まれ、一〇歳のころに朝鮮戦争の悲惨な状況を体験した。そこでは国連軍兵士による性暴行があり、それを防ぐために売春婦たちが村にやってきた。彼女たちは、いわば「韓国の米軍慰安婦」である。私は、こうしたことについて深く考え、読者に向けて語りたいと思っている。
当時の私には、反戦思想のようなものはなかった。つらく、怖く、そして一方では面白い、そんな混乱した心理だった。こうした複雑な思いを背景に、「朝鮮戦争」、そして「戦争と性」というものについて、考えていきたいと思う。




※本書は、平成二六年に当社から刊行された『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』を再構成の上、増補改訂したものです。

目次


はじめに

第一章 戦前・戦後の韓国・北朝鮮
日本統治からの解放
国民学校の戦前と戦後
反日感情の高まり
三八度線と休戦線
戸籍に名前のない母

第二章 朝鮮戦争と米軍慰安婦
私の見た朝鮮戦争
戦争勃発
ヒジキの思い出
故郷への帰路
村の共産主義者
人民軍に虐殺された一家
人民軍の退却
再び韓国側となった時代
中共軍に占拠された村
国連軍の落下傘部隊
村を襲った激しい爆撃
中共軍の死体処理
国連軍による性暴行の被害
兵士が女性をレイプする理由
中共軍による性暴行はなかった
米軍の駐屯と売春村の誕生
ソバ畑の思い出
米軍慰安婦の二面性
売春村の活況
「オヤ」と呼ばれた売春婦
コンドームと英語の氾濫
国際結婚を夢見て
村に定着した売春婦
四人の売春婦を出した家
米軍がもたらしたアメリカ文化
父の死と友人の裏切り
首都ソウルへの転学
板門店「観光」ツアー

第三章 現代韓国の「喫茶店売春」
茶房を利用した売春システム

第四章 日本の統治と韓国のセマウル運動
韓国における独裁と自由
高校教員時代のつらい思い出
独裁者・朴正熙の時代
セマウル運動は「日本起源」なのか
朴正熙の生家を訪ねる

第五章 陸軍士官学校の教官が見た韓国軍
入隊までの過酷な訓練
軍事境界線の真実
警察官を蹴りとばす軍人
軍務と学術研究の両立
国民教育憲章の講義
陸軍大尉として
徴兵制度と愛国心
軍事クーデターへの失望

第六章 性拷問と民主化運動
警察官による性暴行事件
妓生と売春
朝鮮戦争と反共意識の拡大

第七章 韓国人の貞操観念
反日とナショナル・アイデンティティ
ドラマ「冬のソナタ」に見る韓国人の貞操観
宗教観と貞操観
避妊と中絶
伝統と男尊女卑
李氏朝鮮の代理母制度
結婚と貞節
韓国の伝統的な貞操観

第八章 韓国の反日ナショナリズム
日本の「性的」で「低俗」な大衆文化
外敵に狙われる処女
慰安婦問題の歴史的な背景

第九章 戦争と性
1中国の南京大虐殺記念館を訪ねて
2「正しい戦争」はあるのか
3戦争と性

おわりに
参考文献