復刻版 高等科国史

文部省 著 三浦 小太郎 解説 2021.01.24 発行
ISBN 978-4-8024-0111-1 C0021 A5並製 296ページ 定価 1800円(本体 1980円)


「解説」より一部抜粋

復刻版 高等科国史

本書は、国民学校高等科において使われる予定であった高等科国史教科書の復刻である。しかし本書は、実は復刊というより、初めての発行と言った方がふさわしい。『高等科国史』上巻は、その後の勤労動員令の本格化によっておそらくほとんど活用されることはなく、下巻は発行すらされなかったのである。『高等科国史』は、この令和三年、執筆後七十六年の時を経て、初めて世に出ることになったのだ。

『高等科国史』は、大東亜戦争の最中、将来は戦場に赴くかもしれない子供たちのために書かれた。昭和十九年という時代に、現実に戦局が不利であることは、教師はもとより、疎開や動員令のかかっている生徒たちにもわかっていたはずである。実はこの国史教科書は、そのことを隠してはいないのだ。新聞が大戦果を宣伝していたのとは逆で、本書を執筆した著者たちは、子供たちに嘘をつくことはできなかった。

その後の戦局は、東に西に苛烈を極め、特に最近の形勢は頗る重大である。今次の戦争が起死回生の戦である以上、前途なお困難を極めることは、もとよりである。戦況の一進一退は戦の常であり、意気消沈は禁物である。台湾沖の航空戦に、フィリピン沖の海戦に、既に驕敵破砕の一撃は加えられた。承詔必謹、最善の努力を尽くせば、正しき者は必ず勝つ。

そして、『高等科国史』はこう結ばれる。

われら一億国民は、皇国今日の大使命を自覚し、この一戦に一切を捧げて、最後の勝利を獲得し、速かに宸襟を安んじ奉らなければならない。正行出陣の心に学んで、先ず今日の務めに勇往邁進すべきであり、重ねて国史を修めた意義もまた、ここに存する。

「驕敵破砕の一撃」とは神風特攻隊のことと思われる。このような授業をせねばならなかった教師たち、また、その教えを受け、闘いに赴いた生徒たちについて、戦後日本は誤った軍国主義教育として、時には兵士たちの死を無駄死のように誹謗した時期があった。いや、今も本質的には言論状況の主体は変わっていない。

だが、「神国日本」という理念に、また「アジア解放」という政治的行為に、己の命を懸ける覚悟を選択し、それを実践した人々のことを、私たちは軽々しく裁断できるはずはない。

そのことをよく理解していた思想家の一人、小林秀雄は、日中戦争の時代から戦後に至るまで、一貫して次のように述べてきた。

歴史の最大の教訓は、将来に関する予見を妄信せず、現在だけに精力的な愛着を持った人だけがまさしく歴史を創ってきたという事を学ぶ処にあるのだ。過去の時代の歴史的限界性というものを認めるのはよい。併しその歴史的限界性にも拘わらず、その時代の人々が、いかにその時代のたった今を生き抜いたかに対する尊敬の念を忘れては駄目である。この尊敬の念のない処には歴史の形骸があるばかりだ。(小林秀雄『戦争について』)

特攻隊というと、批評家はたいへん観念的に批評しますね。悪い政治の犠牲者という公式を使って。特攻隊で飛び立つときの青年の心持になってみるという想像力は省略するのです。その人の身になってみるというのが、実は批評の極意ですがね。(小林秀雄『人間の建設』)


この『高等科国史』は、日本が神国として戦った時代の理念を引き受けた歴史的な著作である。私たちは、この時代に生き、戦い、死んでいった人々への想像力を抱きつつ本書を読むことが、歴史に敬意を払い、「その人の身になってみる」ことではないだろうか。そこからは、新しい「神国」を創造する試み、国家エゴと覇権主義、排他的な原理主義、一つの価値を強要するイデオロギーから限りなく遠い「開かれた神の国」を作り出すことが、この令和の御代の私たちの使命だという意識が生まれてくるはずである。


目次


神勅
御歴代表

第一 肇国
 一 天壌無窮
  天照大神
  皇孫降臨
 二 八紘為宇
  天業の恢弘
  橿原の宮居

第二 皇威の伸張
 一 内外の経綸
  崇神天皇
  皇化の進展
  国威の発揚
  国力の充実
 二 氏とかばね
  敬神崇祖
  簡素の美
  氏姓の乱れ

第三 大化の改新
 一 承詔必謹
  改新の先駆
  対外関係
  飛鳥文化
 二 公地公民
  改新の詔
  新政の進展
  制度の整備

第四 奈良の盛世
 一 初期の隆運
  平城京
  地方の開発
  史書と地誌
 二 天平の文化
  正倉院
  万葉集
  奈良の末葉

第五 平安の御代
 一 政治の変遷
  平安遷都
  延喜・天暦の御代
  院政
 二 荘園と武士
  荘園
  武士
  大陸の形勢
 三 漢学と国文
  経国の学芸
  女子と文学
  都鄙の美

第六 京かまくら
 一 武家政治
  保元と平治
  平氏の興亡
  守護と地頭
  武士道
 二 承久前後
  後鳥羽上皇
  承久の変
  武家と文化

第七 建武の中興
 一 敵国降伏
  文永と弘安
  堅忍持久
  神国の自覚
 二 公家一統
  朝政の振興
  正中と元弘
  中興の宏謨
 三 七生滅敵
  延元元年
  吉野の朝廷
  興国の文学

第八 室町と戦国
 一 乱れゆく世
  室町幕府
  応仁前後
 二 統一の気運
  皇室と国民
  城郭と茶室
 三 東亜の海
  潮路遙かに
  鉄砲と吉利支丹

第九 安土と桃山
 一 京都の復興
  聖徳余光
  海内の統一
  朝威の振興
 二 雄心壮図
  東亜の経綸
  朱印貿易
  桃山文化

第十 幕府と大名
 一 上方と江戸
  朝廷と幕府
  聖慮深遠
  鎖国前後
  世相と文化
 二 諸藩の治績
  大名統制
  藩の経営
  藩政の鑑
  幕末の雄藩

第十一 伝統の発揚
 一 尊皇思想
  儒学の興隆
  国体の自覚
  国学の成立
  大義の実践
 二 科学と産業
  和算と暦法
  科学の発達
  殖産興業

第十二 幕末の世局
 一 内憂外患
  海外の形勢
  外寇と海防
  一弛一張
 二 朝威の更張
  幕府の失態
  尊攘の志士
  維新の黎明

第十三 明治の維新
 一 維新の大業
  王政復古
  維新の国是
  新政の発現
 二 世界の動向
  欧米の跳梁
  東亜の情勢

第十四 国勢の発展
 一 政治と教育
  公議輿論
  立憲政体
  聖諭と教育
  明治の文化
 二 軍事と経済
  兵制と軍備
  経済の発達

第十五 国威の宣揚
 一 外交の展開
  近隣関係
  国境画定
  条約改正
 二 東亜の保全
  明治二十七八年戦役
  三国干渉
  明治三十七八年戦役
  韓国併合

第十六 大正の御代
 一 欧洲大戦と東亜
  大正の初世
  大戦と東亜
  国際連盟
 二 戦後の内外情勢
  ワシントン会議
  戦後の世相

第十七 昭和の宏謨
 一 満洲事変の意義
  昭和の初世
  満洲事変
  興亜の黎明
 二 大東亜戦争の使命
  支那事変
  東亜と欧洲
  大東亜戦争

年表
用語説明
解説 三浦小太郎



※本書原稿作成に使用させていただいた原本
『高等科国史 上』 国会図書館デジタルコレクション
『高等科国史 下』 茨城大学図書館蔵書


 

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