常識

コモンセンスで取り戻す日本の未来

宮崎 正弘  著 2025.06.14 発行
ISBN 978-4-8024-0240-8 C0031 四六並製 216ページ 定価 1650円(本体 1500円)

プロローグ より

常識

人類普遍の真実が「常識」だと規定すれば、おそらく的外れである。
東西で共通する真理は多いが、各国は独自の文化、風俗がある。宗教の違い、国や地域の伝統によってコモンセンスは大きく異なる。特に善悪、聖魔、正邪、正不正の判定基準が異なる場合、コモンセンスとはいったい何か。

アフガニスタン戦争に米軍が介入し、キルギスのマナス国際空港に海兵隊など二千の米兵が駐屯したことがある。すぐに取材に行った。首都ビシュケク市内でタクシーを拾うと、英語がまことに流暢な知識人ドライバーだった。経済劣悪のためこういう仕事しかないとこぼした。話題が米軍駐留に触れ、日本には数万の駐在米軍がいると言うと、
「えっ、日本は独立国家じゃないのか」
と驚かれた。世界の常識に照らせば、独立国にそれほどの規模の外国軍がいるわけはない。
米国でラジオ局に招かれインタビューされたとき、北朝鮮に拉致された日本人被害者の話題になった。
「同胞が拉致されたら特殊部隊を送り込んで取り返すのが常識じゃないのか」
と言われ、返す言葉がなかった。
ソ連が崩壊した頃、よくモスクワへ取材に行った。穏健そうなロシア人に、
「日露間には北方領土問題が未解決です」
と水を向けると、
「なら軍事力で取り返せば良いではないか」
と単刀直入だった。

国際法では、占領軍が被占領国に憲法を押しつけるのは違法である。したがって「日本国憲法」なるものは占領基本法でしかなく、西部邁は「こんなもの踏みにじれ」と言っていたっけ(ドイツはこの三月にも戦後数十回目の憲法改正を決議したが、その改憲の気軽さ!)。

竹村健一はよく「日本の常識は世界の非常識だ」と言っていた。
大国だけが核武装し、日本に持たせないのは非常識というより不条理だろう。しかし日本が理解していないのが「復讐する権利」である。アメリカはたとい同盟国の日本であっても核武装したら必ず二発報復すると信じている。だから日本には絶対に持たせないのは「復讐権という国際常識」に立脚しているからだ。
法律を守るのが日本人である。いちど決まったら悪法でも墨守する。だから周恩来は日本人の法治徹底を揶揄するかのように「法匪」と揶揄した。法律は体裁上策定するが、守らないのが中国人だ。彼らの合い言葉は「上に政策あれば下に対策あり」。
法律は自分たちで決めても都合が悪くなると臨機応変に改正(改悪?)するの欧米政治の特色。カメレオン的な法治制度である。

この小冊ではコモンセンスの東西比較を基軸に、特にトランプ政権の行おうとしている「常識革命」とはなにか、日本のコモンセンスと何処か違うのかを多角的に考察したい。



目次


プロローグ コモンセンスの革命
▼「コモンセンス」って何だろう?

一章 トランプの「常識革命」
▼世界も、日本も、常識に還ろう
▼アメリカ大陸の常識は出生地主義
▼子供を育てることは神事
▼「地球市民」ってなんのこと?
▼トランプが了解する「政治の本質」とはゲバルト
▼「日本の常識は世界の非常識」
▼アメリカは神の国と信じるトランプ
▼常識で考えると複雑怪奇な世界がきれいに見えてくる
▼ロシアだけが悪なのか?
▼パナマ運河を買い戻し、グリーンランドを米国が買うというのは非常識か?

二章 教育の「常識」
▼正義と不正義は峻別できるのか?
▼教育本来の目的は常識人を育てることにある
▼教育省をぶっつぶせ
▼学校ではトランスジェンダーになりたい少女たちを育てていた
▼ハリウッド映画はなぜ狂ったのか
▼「男性は男性らしく、女性は女性らしく」
▼「スポーツ界における女性と少女の保護法案」を賛成多数で可決

三章 移民・難民問題の「常識」
▼移民・難民問題は難題
▼ドイツの惨状
▼「難民様、いらっしゃい」という愚策は破綻した
▼欧州社会は移民に破壊された

四章 国際問題と経済の「常識」
▼あの熱気は何処へ消えたのか?
▼USスチールの買収はならず
▼「AIは、地政学的な武器だが間違った手に渡れば危険だ」
▼鉄道と郵政公社は「民営化」すべきか
▼ヤルタの密約
▼ブレトンウッズ体制の変身が近い
▼歴史の常識では金備蓄が王道

五章 日本の政治にもかつて「常識」があった
▼“暴れん坊”といわれた青嵐会は政治に常識を取り戻すことを志した
▼「栄誉でつなげ菊と刀」。自衛隊は奇妙な存在
▼『労働鎖国のすすめ』は三十六年前に西尾幹二がすでに警告していた
▼アメリカの二の舞を演じるのか
▼保守の本丸は福田恆存
▼安保条約は平等双務主義に改定する必要があるのではないか
▼保守派の昭和精神史

六章 中国ほどの「非常識」はない
▼愛が通じない国、ドライな中国人
▼ダライ・ラマ法王の言葉
▼台湾統一は悪意に満ちた嘘
▼中国のハイテク戦略
▼他人の領海に勝手に軍事基地を造成
▼サイバー攻撃でインフラを麻痺させよ
▼中国はプライバシー侵害を屁とも思っていない
▼世界ロボット工場の五十パーセントが中国に移行していた

七章 「常識」を超越する認知戦争
▼台湾もまた問題児
▼中国の「認知戦」専門チーム
▼台湾は民主化して経済発展
▼帰化をめぐる常識と非常識

エピローグ 日本は世界初の法治国家だった
▼菊花の香りがしない防衛論
▼舶来信仰を捨てよう