こころも育つ 図解・ホタルの飼い方と観察

人の生活と自然を調和させた世界に誇る日本の「ホタル文化」
日本図書館協会選定図書

大場 信義 著 2012.04.17 発行
ISBN 978-4-89295-905-9 C0095 A5並製 208ページ 定価 2160円(本体 2000円)

序章「ホタル文化を世界に」より

こころも育つ 図解・ホタルの飼い方と観察

私は、ホタルの研究のために、多くの国々をめぐってきました。ホタルは世界のいたるところに生息しているからです。
多くの国々をめぐってみて感じることがあります。それは世界中でこれほどホタルに愛着を感じている民族は、日本人をおいてほかにはない、ということです。日本固有の文化と呼んで差し支えないと思います。

日が暮れて薄暗くなった田舎道に、淡い光をともしながら飛翔するホタルたちに、日本人はなんとも言えない郷愁を感じます。日本人はこれを「当たり前」と思っていますが、実は、諸外国では、たんに「光る虫」程度の捉え方が多いのです。つまり、ホタルに対するこの感覚は、日本人の感性と言っていいのです。

いうまでもないことですが、環境破壊は世界規模で進行しています。
南米大陸のアマゾンは農地を広げるために切り開かれ、東南アジアの森林やマングローブ地帯も同様です。
日本もかつてはそうでした。森が切り開かれ、田畑が開墾されました。でも、日本人はすべて開発したわけではありません。「人里」という思想ともいうべきものがあり、里山として人間と自然の境界線をつくりました。あるいは「鎮守の森」といった形で、自然の一部をそのまま人里に残したのです。
ホタルはまさに、その境界線に多く生息したのです。
日本人がホタルに強い愛着をもっているのは、自然と人の暮らしが調和されていることを証明してくれるからだと思います。ホタルがそこに生きていてくれていることで、とても安心できるのです。
私はこの日本人の思想は、世界に通用するものだと思いますし、むしろ世界に大いに発信すべきだと考えています。

ニューギニア島には、たくさんのホタルが一本の木に群がり、一斉に光を放つ「ホタルの木」があります。これまでテレビなどで何度も放送されたことがあるので、ご存じのかたも多いと思います。私もなんどか現地を訪れ、調査しました。
数年前に「ビアク島」を訪れたときです。この島は西ニューギニア(インドネシア領)北西にある島です。戦争当時、飛行場があってその争奪をめぐって激しい戦闘が繰り広げられたところで、一万人を越える兵士が亡くなったといわれています。そこに「ホタルの木」があります。
ホタルの木を探して、私は森や林の周辺を歩きました。戦後七〇年近く経過していますが、今もたくさんの遺骨がありました。現在、遺骨収集が行われていますが、収拾されたお骨は、亡くなった兵士の数の七%に満たないとされています。

ニューギニア・ビアク島のホタルの木
ニューギニア・ビアク島のホタルの木


このジャングルで今も眠る兵士も、きっと、ホタルの木の無数のホタルたちの光を見たと思います。そして、ふるさとの日本に思いを馳せたと思います。ホタルの木は、日本につながっているような気がするのです。この感性こそ、先ほど述べた「日本人特有のもの」だと思います。だからこそ、このホタルの木を中心としたジャングルを、そのまま聖域として大切に残しておきたいと思うのです。

そうすれば世界中から多くの人々が、この美しいホタルの木を見に訪れるでしょう。そして同時に、戦争を考え、亡くなった人々を偲び、平和の尊さを実感できると思います。日本人の感性も実感してもらえると思います。このことは地球環境の保全にも貢献することにつながります。

ホタルの光の美しさは、世界に通じるものと確信しています。それはホタルを愛でる日本の文化の紹介にもつながると思います。最近ネットに掲載された日本人が撮影したホタルの写真が世界で人気、という話も聞きました。
ホタルの魅力に世界の人々が気がつき始めたのかもしれません。
ホタルは愛でるだけの存在ではないと思います。その背景には、自然と人間との共存、命の尊さといったテーマが存在していると感じます。

この本では、ホタルの飼い方と観察を中心に、世界のホタルのことも紹介していますが、ホタルは日本の文化の一つという意識のもとで、ホタルたちと接していただければと願っています。そして、ホタルの飼育をするに当たり、その目的が何であるかを常に考える必要があります。
そうした上で、日本のホタル文化を、世界に発信していきましょう。




※この本は、平成12年5月に刊行された「増補/学校・地域でビオトープ 〈図解〉親子で楽しむホタルの飼い方と観察」を大幅に加筆訂正したものです。



ヘイケボタル(オス)の発光
ヘイケボタル(オス)の発光
ゲンジボタル(オス)の発光
ゲンジボタル(オス)の発光"
アカホタルモドキ(オス)
アカホタルモドキ(オス)
スジグロベニボタル(オス)
スジグロベニボタル(オス)
タテオビクシヒゲホタル(オス)
タテオビクシヒゲホタル(オス)
オオシママドボタル(オス)
オオシママドボタル(オス)
イリオモテボタル(メス)抱卵発光
イリオモテボタル(メス)抱卵発光
ゲンジボタルの幼虫
ゲンジボタルの幼虫


前書き

古くからわが国では、ゲンジボタル、ヘイケボタルに代表されるホタルが、夏の風物詩として、多くの人々に親しまれてきました。特に、ヘイケボタルは、水田とそれを取り巻く環境に適応してきた代表的昆虫で、かつての日本の典型的な風土・環境のシンボルともいえる存在でした。

ところで、このような風土・環境は、言葉を換えれば、自然と人間活動がほぼ平衡状態にあった「里地・里山」ということができるでしょう。そこでは、たくさんの生き物とふれあうことができ、わたしたちは、深いやすらぎとうるおいを実感することができたものでした。

ホタルは、人間と自然が共存しあう豊かな環境のシンボルにほかなりませんでした。
ゲンジボタルやヘイケボタルが、山奥の渓流よりも、むしろ人家周辺の流れに多く見られる事実はこのことを裏付けているといえるでしょう。

ホタルが人里に適応し繁栄した理由はたくさんありますが、そのいくつかをあげれば以下の通りとなります。

@水系が人為的に管理されているので生息環境が安定している。
A草刈りや枝払いなどが適宜なされているので、日照や空間が確保されて、生産性を上げるとともに、飛翔空間が提供されてきた。
B稲作にともなう肥料散布や、人家の雑排水中の有機物が、ホタルの餌となるカワニナなどの 繁殖を促した。

しかし、このような条件を過不足なく満たす環境が激減しているというのが、いつわらざる日本の現状です。必然的にホタルは、減少しています。同時にそれは、わたしたち人間にとっても住みにくくなっているという証しでもあるのです。
問題は、そのような状況を人間みずからがつくりだしているということです。人間は、被害者であると同時に加害者でもあるのです。

たしかに、ホタルのともす光は美しく神秘的で、さまざまなストレスで渇いたわたしたちのこころをやさしく癒してくれるに相違ありません。もちろん、それだけでもホタルを飼育し、観察・鑑賞する価値は十分にあるといえるでしょう。
しかし、同時に、ホタルとの出会いを通じて、いまいちど、わたしたち人間を取り巻くさまざまな環境について思いを馳せてみようではありませんか。

かつて「里地・里山」のシンボルだったホタルが、いま、わたしたちに、おおいなる警鐘を打ちならしているように思えてならないのです。


ゲンジボタルの生活史
ゲンジボタルの生活史

目次

前書き

序章 ホタル文化を世界に

第1章 たのしいホタルの飼育
ゲンジボタル・ヘイケボタルの飼育
●ホタルの産卵にチャレンジ!
卵を産むための場所づくり
卵から、ふ化させよう
●だれでもカンタン幼虫の飼育
幼虫のいる場所を探そう
幼虫の大好物―「カワニナ」
ホタルの暮らす場所づくり
●幼虫からさなぎ、成虫へ
冬の過ごさせかたは――
羽化のさせかた
●野外で飼育できる!
陸生ホタルの飼育
●卵を産む場所は?
●幼虫が生息している場所は?
●簡単な飼育装置づくり
●ここに注意して飼育を
●ゲンジ・ヘイケとの違い
飼育用具・総チェック
●ゲンジボタル・ヘイケボタルを飼育するとき
●陸生ホタルを飼育するとき
観察のしかた
気をつけよう! ホタルの外敵と病気


第2章 ビックリ!! 世界と日本のホタル
日本・世界のホタル
●日本のホタル
●南西諸島のホタルたち
●世界のホタル
ホタルの「光」の謎に迫ろう
●ホタルはどうして、いろいろな光を放つのでしょう?
●ホタルの光には、いろいろなパターンがあります
●光らないホタルもいます
●ホタルのコミュニケーション
●なぜ光ることができるのでしょう?

第3章日本のホタル学
・ゲンジボタル・ヘイケボタル・キイロスジボタル
・オキナワスジボタル・ヒメボタル・ヤエヤマボタル
・クロイワボタル・アキマドボタル・オオシママドボタル
・オオマドボタル・オキナワオバボタル・ハラアカオバボタル
・ムネクリイロボタル・カタアカホタルモドキ
・アカホタルモドキ・オキナワクロホタルモドキ
・オバボタル・オオオバボタル・スジグロベニボタル
・タテオビクシヒゲボタル・イリオモテボタル
●世界のホタル・発光昆虫
・ランピリス・ノクチルカ・ランピリゲラ・プテロプティクス
・フォチヌス・ヒカリコメツキ・鉄道虫・星虫

第4章 自然環境とホタル
●ホタルは自然環境のバロメータ
●農薬、生活雑排水とホタル
●他の生物との共存について
●生息地保全と飼育・増殖の問題点
■小中学校・地域連携でのビオトープづくり
・ビオトープづくり、七つのポイント
・ビオトープへの関わりと注意点
・A小学校の「ホタルの里づくり」の取り組み
・B小学校の取り組み
・C小学校の取り組み
・D小学校の取り組み
・E小学校の取り組み

あとがき


 

お勧めの書籍