政府認定の〝拉致被害者〟は17名、これに対し拉致の可能性がある〝特定失踪者〟は900名にも上る" />

北朝鮮よ、兄を返せ

“特定失踪者”実弟による手記

藤田 隆司 著 2022.05.26 発行
ISBN 978-4-8024-0131-9 C0021 232ページ 定価 1540円(本体 1400円)

「拉致の闇」に光をあてる渾身のルポ
「独立国」としての憲法も国防軍もないこの日本では
主権を侵され国民を奪われても奪い返すことができない
日本国内に潜む北のスパイや協力者に阻まれ、
政治家も警察も介入できず、未だ解決の糸口が見えない

「新宿方面のガードマンのアルバイトに行く」
その言葉を最後に、当時19歳の大学生だった兄は消息を絶った。
失踪から28年後に突如、その兄の写真が元工作員によって流出した。
それは、残された家族にとって新たな苦悩と闘いの始まりに過ぎなかった。

2002年に5人を返して以降、残りの拉致被害者を返すことなく
20年近くが過ぎ、その安否も居場所も何も知らされず、再会できずに
他界する家族が年々増えている。私の父も、多くは語らなかったが
息子との再会を信じ、待ち続けた。しかし、その願いは叶うことはなかった。

「解説」より抜粋

北朝鮮よ兄を返せ

本書を読まれた方は、皆さんおそらく同じことを感じるだろう。
「こんなに証拠があるのになぜ政府は拉致被害者として認定しないのか」と。
この写真は法人類学の権威である橋本正次・東京歯科大助教授(当時)が鑑定し、本人である可能性が極めて高いという結論を出している。さらに警察は警察で独自に鑑定を行い、やはり同様の結果になっているのだ。また、松原仁・元拉致問題担当大臣は大臣退任後だが、在任中に藤田進さんについて、「拉致されており、北朝鮮で生存していると認識していた」旨発言している。

それでも認定しない理由は、実は簡単なことである。認定してマスコミから「なぜ今認定したのですか」と聞かれたとき、どう答えるか。「今まで分かりませんでした」と言えば非難を浴びる。「実は分かっていましたが隠しておりました」とは口が裂けても言えない。それなら時間が過ぎるのを待つに限る。待てば自分は(政治家であれ、役人であれ)担当から外れるということだ。

第二次安倍政権が始まったとき、政府は「認定の有無にかかわらず」という言葉を使うようになった。これは結局、認定しないことの言い訳なのである。
だから特定失踪者問題調査会では、政府に拉致認定を求めていない。特定失踪者家族が拉致認定を求めることには協力するが、調査会として独自には認定を求めない。それは政府の「認定の有無にかかわらず」が「救出する」ではなく「救出しない」だからである。

ちなみに、政府認定拉致被害者十七人のうち、誰も事件を知らなかったときに、政府機関ないし警察がその存在を発表したケースはない。久米裕さん、横田めぐみさん、地村保志さん、地村富貴江さん、蓮池薫さん、蓮池祐木子さん、市川修一さん、増元るみ子さん、田中実さんは報道によって明らかになった。
石岡亨さん、松木薫さん、有本恵子さんの三人については、石岡さんが札幌の実家に送った手紙がきっかけで明らかになった。田口八重子さんは大韓航空機爆破事件の犯人・金賢姫の自供、原敕晁さんは、原さんに成り代わった工作員・辛光洙の自供で拉致が明らかになった。
松本京子さんは、現在調査会顧問の妹原仁氏が地元を歩いて見つけ出したものである。
曽我さん母子に至っては、北朝鮮が頼まれもしないのにひとみさんを出してきたことによって明らかになった。
もし報道機関が報じなければほとんどのケースは明らかになっておらず、単なる行方不明事案として処理されていたろう。
また、現在平壌に住んでいる寺越武志さんは、昭和三十八(一九六三)年に叔父二人とともに能登半島の沿岸で拉致された人である。北朝鮮にいることが分かっており、家族も直接会って本人も一度は日本にやってきているのに、拉致認定されていない。警察は「法と証拠に基づいて厳正にやっている」などというが全くの嘘である。

そもそも認定云々以前に、北朝鮮にいる拉致被害者は取り返さなければならない。これは警察に責任を負わせて済む問題ではない。外交交渉も平成十四(二〇〇二)年に五人を取り返し、その二年後に彼らの家族を解放させて以来何もできていない。外交交渉でできないならば、国家の意思として全ての手段を用いて拉致被害者を救出しようとするのが当然ではないか。しかし現実には、政府にそのような意思は全く見られないのだ。

そのような状況の中で、最も苦しんできた特定失踪者家族の一人が、著者の藤田隆司さんである。それは私が解説で説明するより、本書を読んでいただいたほうが良く分かるだろう。

藤田進さんは私と同学年である。自分が満喫していた大学生活と同じ時期に北朝鮮に拉致され、その後半世紀近く帰国の道を閉ざされてきたことを考えるとき、四半世紀拉致問題に関わりながら結果を出すことのできない自分自身の責任を痛感せざるを得ない。
本書が一人でも多くの人に読まれ、拉致問題への理解と関心を高め、ひいては進さんを始めとする被害者の救出へとつながることを切に期待している次第である。


特定失踪者問題調査会代表 荒木和博

目次


はじめに

第一章 兄の失踪
 何気ない日常 昭和五十一年二月七日
 兄の足取りを追って
 兄のギターと主のいない部屋
 兄が残した足跡
 兄の思い出
 二十八年ぶりの希望の訪れ
第二章 兄は北朝鮮で生きていた
 北朝鮮から流出した写真
 北朝鮮での目撃情報
 拉致実行犯の告白
 国民に知らされていない拉致情報
第三章 新たな苦悩と闘い
 叔父の失踪
 もう一人の藤田進さん
 否定も肯定もしない日本政府
 認定の壁
 古川認定訴訟と表明書
 認定は必要か?
 告発状の提出と日弁連による人権救済申し立て
 人権救済申立事件 調査報告書
 質問主意書と答弁書
 人生の危機・転機
 五十ヶ国の大使館訪問
 ジュネーブへ
 あまりにもひど過ぎる北朝鮮からの回答
 国連北朝鮮人権報告書(COI報告)
 やってもやっても進まない拉致問題
第四章 北朝鮮よ、日本よ
 朝鮮「民主主義」人民共和国?
 「恨」の国・北朝鮮
 カルトの国
 「力しか信じない国」
 金正恩への手紙
 大切な何かを忘れた日本
 決められない国・日本
 一方通行でしかない「不戦の誓い」
 平和幻想からの脱却を
 国家の意思はどこにある?
 日本丸は何処へ行く
第五章『キューポラのある街』と拉致問題
 田口八重子さん
 『拉致問題を考える川口の会』の結成と活動
 忘れられない人
 「田口八重子さんを救う会」
 「消えた川口の五人」の点と線
 「特定失踪者」家族の声
 映画『キューポラのある街』
 北朝鮮帰還事業と小泉元首相親子
 「もっといる、でも今はまだ言えない」
 「拉致ぐらいで、つべこべ言うな」「差別になるから、やめて」
 日本の中の北朝鮮
第六章 特定失踪者にも光を
 特定失踪者とは?
 拉致の可能性約九百人と情報公開請求
 蓋然性と暗数
 拉致被害者は何人いるのか?
 なぜ、拉致の発覚が遅れたのか
 「特定失踪者家族会」の結成
 国際刑事裁判所への申し立て
 特定失踪者にも光を
第七章 拉致問題は解決できるのか?
 コロナと拉致
 家族の絆は断ち切れない
 母の慈愛
 父の無念
 国交正常化の危険性
 対話か圧力か
 在日朝鮮人のルーツ
 「恩を仇で返すな」
 中高生の感想文より
 未来への希望

解説 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
参考資料
 日朝平壌宣言
 ストックホルム合意



 

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