[新字体・現代仮名遣い版]大東亜会議演説集

「アジアの目覚め」と現代の帝国主義への警鐘

三浦 小太郎 著 2025.08.11 発行
ISBN 978-4-8024-0244-6 C0021 四六並製 256ページ 定価 1650円(本体 1500円)

はじめに アジア主義の時代──西欧近代との闘い より

大東亜会議演説集

アジア主義は様々な思想家・活動家、そして又無名の日本人志士たちによって引き継がれていった。そして、政治活動そのものには参加しなかったが、アジア主義を文明論として最も深く展開した思想家が、本書で取り上げる岡倉天心だった。

岡倉天心が英文で書き、イギリス植民地支配下のインド知識人や独立運動家の間で密かに読まれた『東洋の目覚め』は、中国、インド、イスラム社会に広がる広範囲のアジア諸文明を取り上げ、アジアを一つの普遍的な文明圏として提示するものだった。そしてそのアジアは現在、西欧の植民地支配下にある(天心は日本も精神的には西欧の価値観に屈しつつあると考えていた)。天心はその現状を次の一言で表現した。

「ヨーロッパの栄光はアジアの屈辱である」(天心)。

天心は今こそ、政治的にも精神的にも、アジアは西欧と戦って自ら解放されなければならないと訴えた。アジア諸民族の民衆決起によるアジア全土での武装蜂起とゲリラ戦を謳う天心の雄弁は、アジアからの西欧近代への聖戦の呼びかけであった。

戦後社会は、戦争をすべて悪とし、聖戦なる概念は侵略の正当化とみなした。天心の思想も彼の美術史家、文明論者としての面のみが強調され「東洋の目覚め」のアジア主義的側面は軽視されるようになる。だが、アジア主義は近代日本において、西欧に抗しうる思想として、また運動として、犬養毅をはじめ政府当局者の中にも影響を与えていたのだ。確かに北一輝の処刑や中野正剛の自決に象徴されるように、民間のアジア主義はしばしば反政府思想として弾圧を受けた。だが、日本がついに欧米と決定的な対決に及んだ大東亜戦争の最中、岡倉天心は預言者として評価され、大東亜会議という場において、アジア諸民族の連帯は不充分とはいえ実現したのだ。

戦後、日本社会の近代化はほぼ完結し、福沢諭吉の脱亜論が最も説得力を持って読まれるようになった今、アジア主義は役割を終えたかに見える。だが、近代の行き着く果てである二十一世紀の現在、西欧的価値観の最も普遍的なものとされた自由と民主主義は力を失い、むき出しの覇権主義や帝国主義の論理さえもが復活している。抑圧された民族の連帯と解放に向かう理念が、今こそ必要とされているのではないだろうか。

岡倉天心の思想と大東亜会議に集ったアジアの指導者たち、そして大東亜会議を開催した重光葵を中心とした先駆者の言葉を、大東亜戦争終戦八十周年の年に読み直し現在の問題としてとらえなおすこと、本書で非力な私が試みるのはそのような作業である。



目次


はじめに アジア主義の時代──西欧近代との闘い

第一章 預言者・岡倉天心の生涯
危険な思想家
文明開化に抗した美術運動
アジアでの覚醒

第二章 岡倉天心のアジア解放論『東洋の目覚め』
ヨーロッパの栄光はアジアの屈辱である
東洋と西洋、その「文明の衝突」
武装闘争による西欧近代の打倒とアジアの復興

第三章 東亜新秩序から大東亜共栄圏へ
昭和十三年「東亜新秩序」声明
大東亜共栄圏の変貌

第四章 重光葵の奮闘と大東亜共同宣言成立の推移
重光葵の大東亜共栄圏構造
戦争目的研究会設立
外務省研究案
重光修正案
大東亜省による「前文」の追加
戦前の日本外交精神の頂点「大東亜共同宣言」

第五章 東條英機と大東亜会議
東條英機の「大東亜宣言」演説
東條演説がもたらした「朝鮮独立論」
大東亜会議開催と東條英機開会演説

第六章 汪兆銘と大東亜会議
汪兆銘と辛亥革命
民衆への愛と日中和解への希望
大東亜会議における汪兆銘演説

第七章 「政治」に徹した二人の発表
タイ国の巧みな外交戦術
独立国タイは日本と対等であることを強調
張景恵満洲国総理大臣

第八章 大東亜会議における新独立国
フィリピン代表ホセ・ラウレル大統領
大東亜共栄圏は一国の利益のために存在するのではない
ビルマ代表バー・モウ元首
アジアの目覚めと来るべき未来

第九章 チャンドラ・ボースの戦い
チャンドラ・ボースとガンディーの路線対立
イギリスはインドから出て行け
米英帝国主義との決戦
ボースと汪兆銘

エピローグ そして現代の中華帝国主義と民族独立
大東亜会議後の各指導者
アジア連帯の崩壊と中華帝国主義の出現

おわりに
参考文献

大東亜会議演説集